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『虎とバット 阪神タイガースの社会人類学』
「二番手」だから愛される、阪神タイガースの異様性。
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph bySports Graphic Number
posted2019/08/27 15:00
『虎とバット 阪神タイガースの社会人類学』ウィリアム・W・ケリー著 高崎拓哉訳 ダイヤモンド社 1800円+税
「日本で一番高い山は?」
「富士山です」
「正解。では、二番目に高い山は?」
「……わかりません」
「そう、二番なんてそんなもの。だから一番にならなければいけない」
こんな問答がスポーツ現場で頻繁に繰り返されたせいで、今や普通に「北岳」と解答できる人が増えているそうだ。
二番手は記憶に残りづらいように思えるが、あまりに象徴的な二番手がいたら話は別だ。たとえば日本の政治・経済の中心地である東京に対する大阪のように。
仕事で大阪のビジネスホテルにチェックインし、テレビをつけるたびに時間が止まったかのような錯覚を覚える。試合の生中継からワイドショーまで、どんなときも阪神タイガースの情報にあふれている。町に出ても、阪神が勝ったか負けたかを話題にする人々がそこら中にいる。全国的に深刻化している「野球離れ」とはまるで無縁のようだ。