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競歩・鈴木雄介「コースの再考を」。
来夏のマラソン、競歩はどうなる?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2019/08/18 11:40
外国でさまざまな夏の大会を経験した鈴木雄介は日本の暑さを危惧。
過去のレースでは完走率が6割。
ただ、路面から一定の高さになると、通常より気温や熱中症の危険度を示す暑さ指数(WBGT)が高くなるという研究結果を、東京農業大学の樫村修生教授の研究チームがまとめ、学会で発表する予定であることを朝日新聞の記事が伝えている。
過去の事例では、1991年に東京で行われた世界選手権が1つのサンプルになるかもしれない。男子マラソンは午前6時にスタートを切ったが、スタート時の気温は26度、湿度73%。優勝したのは谷口浩美、そのタイムは当時の世界最高記録より8分以上遅い2時間14分57秒、完走率は6割にとどまった。
そのときも環境の厳しさがレース前から指摘されていたが、今日の東京の暑さは、当時を上回るだろう。
2007年、大阪で行われた世界選手権もまた、酷暑のもとで開催された。マラソンは男子、女子ともに午前7時スタート。ドライミストをコース上に設置するなど対策を凝らしたが、男子の完走率は7割を切り、優勝タイムはどちらも低調な数字にとどまった。
屋外での運動を控えるニュースの後に……。
また、大阪では、マラソンや競歩の選手ばかりでなく、他の種目の選手たちも暑さに苦しんだ。上位進出が期待されたフィールド種目の日本代表選手が脱水の影響による痙攣を起こしたり、海外の選手が医務室に駆け込むなど、さまざまなトラブルが発生している。そして暑さに苦しんだのは選手ばかりではなく、運営にかかわるスタッフや観客も同様であった。
すでにオリンピックのコースは決定している。鈴木の言うコース再考などは困難かもしれない。ただ、猛暑に直面してみて、1年後の過酷さも実感した鈴木のみならず、複数の懸念の声が現場から上がっている。
先だって、テレビのニュースで、熱中症への注意、暑さへの対策、屋外での運動を控えるよう伝えたあと、東京五輪開幕まで1年を切り、盛り上がりを楽しみにするニュースが流れた。そんなニュースを見つつ、残る時間の中で、やれることには限りがあるかもしれないが、より良好なコンディションへと、身体への悪影響を減らすための工夫の必要性を、あらためて思う。