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15勝カルテットと短期決戦の罠。
アストロズはジンクスを破れるか。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2019/08/17 08:00
ジャスティン・バーランダー(一番右)を中心としたアストロズ先発4本柱はホームラン量産時代の流れを止められるか。
メイズが「ザ・キャッチ」を見せた'54年。
当時のオリオールズは、奇才アール・ウィーヴァーに率いられ、'69年から'83年までの15年間で、ワールドシリーズ制覇2回、リーグ優勝5回、地区優勝7回という赫々たる戦果を残している。それでも71年は、ワールドシリーズで敗れている。ロベルト・クレメンテ(翌年が最後のシーズンになった)やウィリー・スタージェルが打線の中軸を担うパイレーツに、3勝4敗で王座を明け渡してしまったのだ。
15勝カルテットのいた有力チームは、ほかにもある。'54年に111勝を挙げたインディアンスもそうだ。ボブ・レモン(23勝)、アーリー・ウィン(23勝)、マイク・ガルシア(19勝)、アート・フットマン(15勝)、ボブ・フェラー(13勝。ただし35歳)という布陣を見ると、なぜワールドシリーズ制覇を果たせなかったのだろうか、と不思議な気になる。ただ、あのときは相手がニューヨーク・ジャイアンツだった。そう、ウィリー・メイズが球史に残る「ザ・キャッチ」を見せ、ダスティ・ローズが一世一代の打撃を見せたジャイアンツ。レモンやウィンが打ち込まれては、インディアンスの4戦全敗も致し方なかった。
意外にも頂点に上り詰めていない。
こうして見てくると、皮肉なことに、20勝カルテットや15勝カルテットを擁するチームは、意外にも頂点に上り詰めていないことが多い。記憶に新しいところでは、15勝カルテットまであとひと息だった2001年のアスレティックスが、ALDSでヤンキースに逆転負けを喫している。マーク・マルダー(21勝)、ティム・ハドソン(18勝)、バリー・ジート(17勝)、コーリー・ライドル(13勝)と並ぶ先発投手陣は、実に魅力的だったのだが……。
ま、歴史は教訓にこそなれ、法則にはならない。今季のアストロズが、いま述べてきたジンクスを打ち破る可能性はかなり高い。その反面、不安材料もいくつかある。左投手がマイリーひとりしかいない。ヴァーランダーとグリンキーの年齢が35歳を超えている。もし9月までに故障者が出た場合、補充が利かない(ウェイヴァー・トレードが廃止されたため、レンタルもできない)。短期決戦特有のモメンタムが働いた場合、一気に押し切られる可能性がある……。このあたりの綱引きをどう見るか。ホームラン量産時代に、あえて先発投手陣の充実で覇権を狙うアストロズの思い切ったチーム戦略に、しばらくは注目を怠れない。