メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
ダルビッシュはほぼ“転生者”?
20歳で想像した「全てを失う人生」。
posted2019/08/12 09:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
AFLO
いつもの夏よりも少し涼しい、シカゴの昼下がり。
背番号11、ダルビッシュ有投手がダッグアウトから姿を現すと、後に続いたカブスの選手たちがグラブ片手にフィールドに散っていった。
ざわついていた観客が、リグリー・フィールドのあちこちで拍手と声援を送る。場内に流れ始めたBGMは、GReeeeNの「道」だった。
どんなにつらいような時もせわしなく過ぎて行く日々も
明日へと続いた道で1つ1つが今の君へ
日本ハム時代の登場曲をバックにウォーミングアップを終えたダルビッシュは、いつものように上半身を屈めて緑色のグラブで右足、左足をトントンと触り、最後にスコアボードの方にグイッと上体を捻ってから、一番打者と向き合った。
“ユーイング”が日常に戻ってきた。
恐ろしくバックスピンの効いた速球。タテ、斜め、横へ、速かったり、緩かったり、平面ではなく、立方体のストライクゾーンを切り刻む変化球。「我らがカブスのStarter=先発投手」が三者凡退に切って取ると、それまで幾らか散漫だった場内の雰囲気が一気に、一つの方向に向く。
「Yuuuuuuuu!」
ブーイングならぬユーイング。レンジャーズ時代から始まった、ダルビッシュのファーストネーム「有」に引っ掛けた声援。心の底からベースボールを楽しみたい観客は、とりわけイニングの最後の打者が三振にでも倒れようものなら、とびきり大きなユーイングを浴びせる。
言わば「YUUUUUUUUUUU!」。
3アウト目を三振で取ったダルビッシュが、マウンド上で「Yes!」と叫ぶ。その姿を見て、思わず立ち上がり、今まで以上にぶ厚い重低音のユーイングを浴びせる地元の観客たち——。
そんな風景が、今や日常的になっている。