野球善哉BACK NUMBER
進学校が甲子園で見せた分業制。
米子東の席巻が、もう待ち遠しい。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2019/08/08 15:00
エース森下(左)とマウンド上で会話する2年生捕手・長尾。強打の智弁和歌山に敗れたが、大きな財産を得た。
強豪・智弁和歌山相手に接戦へ。
そうした指揮官の戦略もあってか、強豪の智弁和歌山相手に5回を0-1で折り返すという接戦に持ち込むことができていた。
紙本監督は言う。
「ツーシームとインコースのストレートを使ってベースを広く使いたいなと思いました。前半は我慢比べのうちとしては理想的な展開に持ち込めていたと思う」
ただ、試合はここまでだった。
6回表に同点とした後、3イニング連続して智弁和歌山打線の集中打を浴びて合計8失点して万事休す。
とはいえ、紙本監督が終盤にとった策もまた新鮮なものだった。
3年生エースに頼らない米子東。
6回裏に3点を勝ち越された場面で智弁和歌山の主将・黒川史陽を迎えると、紙本監督はエースの森下から2年生右腕の山内陽太郎へとスイッチ。森下の球数が100球に達したところだった。
「球数は知りませんでした。試合展開、状況を見て交代を判断した」
これが実情だが、3年生エースにいつまでも頼るのではなく、思い切ってスイッチしたところに、チームをどう作ってきたかがうかがい知れた。
こう言っては少し失礼な言い方になるが、米子東のような公立校が実践する戦いというのは、エースに頼りきりというスタイルであることが多い。
球数制限の議論などでも度々「球数制限をすれば公立校は圧倒的に不利」と言われるのも、かつて多くの公立校がそうした戦いぶりを見せてきたことが大きい。しかし、公立の進学校である米子東は、春のセンバツでベンチ入り18人にすら満たなかったチームだったにも関わらず、複数の投手を擁しているのだ。
紙本監督は「複数投手で戦うのが理想」とした上で、こう話した。
「今までの常識とされていたことを一から見直して、科学的に根拠のある、再現性のある取り組みを続けてきました。それによって、こういうチームでも活躍できる選手を作れるということです」