令和の野球探訪BACK NUMBER
奥川恭伸に敗れて浴びた大歓声。
甲子園は、旭川大高・能登の始発点。
posted2019/08/08 12:00
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Kyodo News
星稜の校歌斉唱を終えると、甲子園球場全体が大きな拍手に包まれた。
それは勝利を祝う一塁側だけでなく、三塁側のアルプススタンドに一礼する敗れた旭川大高の選手たちにも向けられたものだった。その勇敢な戦いぶりが多くの観衆の心を掴んだ何よりの証拠だった。
旭川大高のエースナンバーを付けた能登嵩都(のと・しゅうと)は優勝候補の一角に挙げられる星稜打線に9安打を浴びながらもわずか1失点に抑えた。3安打完封を果たしたドラフト1位候補右腕・奥川恭伸と同じ9奪三振を記録し、堂々の投げ合いを演じてみせた。
「あの四球がなければ……」
自己最速は144キロで、この日は最速142キロ。奥川のこの日の最速153キロよりも約10キロ遅いが、北北海道大会で29イニングを投げて四死球わずか2個のコントロールが冴えわたり、コーナーにキレの良いストレートを投げ込んでいった。さらに変化球も「ベースの上で落とすイメージで投げています」と話すようにチェンジアップやスライダーを打者の手元で絶妙に変化させて、星稜打線に最後まで決定打を与えなかった。
味方の好守や、チェンジアップを3球続けて3つの空振りで三振を奪うなど捕手・持丸泰輝とのコンビネーションも光った。
試合後のインタビューでもその毅然とした姿はマウンド上と変わることはなかった。悔やんだのは唯一の失点を喫した2回。1死走者なしから奥川に与えた四球だ。そこから連打で1点を失い、0-1で敗れた。
「少し気張って力が入ってしまいました。あの四球がなければ失点はなかったと思います」
能登はそう、唇を噛んだ。
一方で失点を最小限に留めた。その後の星稜の捕手・山瀬慎之助が試みたスクイズに対し「ランナーが動いたので」と察知しアウトコースに大きく外し、同じく三塁走者の動きを見ていた持丸も立ち上がり三塁走者を挟殺した。
以降は奥川の投球にどよめくスタンドは、いつしか能登の巧みな投球術にも唸っていった。