F1ピットストップBACK NUMBER
ホンダがF1復帰後初のPP獲得!
コース外での「5分52秒」の戦い。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2019/08/12 11:30
自身初のポールポジションを奪ったフェルスタッペン。決勝はわずかな戦略の差で逆転されて2位となったが、表情は晴れやかだった。
フェルスタッペンからの無線。
もうひとつ、ホンダにとって気になることがあった。1回目のアタックで、フェルスタッペンが「最終コーナーを立ち上がったところでバッテリーが切れた」と無線で伝えてきていたのだ。
現在のF1はターボエンジンに2つの回生エネルギーシステムが統合されたハイブリッドとなっており、1周あたり120kW(約33秒間)のモーターアシストによるデプロイメントを使用することができる。
ハンガロリンクでフェルスタッペンが暫定PPを叩き出したラップタイムは先述のように1分14秒958だったから、約33秒間はターボエンジン+モーターアシストで走り、残りの約42秒間はターボエンジンだけで走っていたことになる。その配分を「エネルギーマネジメント」と言い、どう配分するかはパワーユニットの特性とクルマのセッティング、そしてドライバーのアクセルワークによって異なる。
フェルスタッペンが「バッテリーが切れた」と感じたのは、バッテリーに問題が発生したのではなく、そこまでに120kWのモーターアシストを使い切ってしまったからだった。
日本とイギリス、現場の遠隔操作。
しかし、ドライバーがパワーを欲しいと思ったところでパワー不足を感じたのなら、エネルギーマネジメントが最適ではなかった可能性がある。
「1回目のアタックのデータを見て、2回目のアタックに向けて、HRD SakuraとHRD MK、そしてサーキットの現場で、同時進行で対応しました。そして、エネルギーマネジメントの設定を変えました」(田辺豊治F1テクニカルディレクター)
HRD Sakuraとは栃木県さくら市にあるホンダF1の開発を行う研究所。HRD MKはイギリス・ミルトンキーンズにあるホンダF1の前線基地だ。
フェルスタッペンの走行データはサーキットから衛星回線を使用して、日本とイギリスにいるホンダのスタッフも監視している。田辺TDから指示を受けたそれぞれのエンジニアたちはシミュレーターを駆使して、最適なエネルギーマネジメントを弾き出し、ハンガロリンクへ返信。現場のエンジニアは送られてきた新しいデータに設定し直して、フェルスタッペンを最後のアタックに送り出した。