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智弁和歌山を変えた中谷仁監督。
捕手・東妻と投手陣で「守る」。 

text by

米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byKyodo News

posted2019/08/07 20:00

智弁和歌山を変えた中谷仁監督。捕手・東妻と投手陣で「守る」。<Number Web> photograph by Kyodo News

自らが捕手だった中谷仁監督は、打のイメージが強い智弁和歌山でバッテリーの強化に注力してきた。

終わってみれば5試合で1失点。

 またリードでは、投手のよさをいかに引き出すかを心がけた。東妻は大会中、こう語っていた。

「ピッチャーにいい球を投げさせてあげるには、構え方や呼び方が大事。自分が打たれたくないからって、コースギリギリにばかり構えていたら、ピッチャーは投げづらい。厳しいコースに構えて、実際にそこに投げてくれたら打たれないんですけど、全部そこに投げるのは難しい。

 ピッチャー陣はいい球を持ってるんで、少し甘いコースでもファールを取って、カウントが有利な場面でコースを広く使う。そうしていかに調子を上げてあげられるかが大事だと思っています」

 終わってみれば、和歌山大会は5試合でわずか1失点。打撃でも、6番に座りチーム最多の8打点と貢献し、東妻自身5季連続となる甲子園出場をつかんだ。

 春季大会の時とは違い、夏の県大会中は笑顔が多く、自信を持って臨んでいるように見えたが、「怖かった」と明かした。

「みんなに明るくなったなって言われるけど、内心は、怖くて、不安だらけでした。でもそれを態度に出したらいけないので、そこは自分で抑え込んで。だから準備はしました。中谷さんには、『怖いんやったら準備したらいい。その準備が自信になる』といつも言われていたので」

「甲子園でどういうアイデアを出すか」

 決勝後、中谷監督は、「よかったと思います」と珍しく東妻を褒めた。

「本当に苦しんでもがいてきたことを、今大会の5試合で結果として出してくれたというのは、僕のこれからの指導の1つの指針になりますし、東妻自身も、1つ自信を持ってくれたらいいんじゃないかなとは思います。

 センバツの後はバッテリーに対する要求を高くして、特に東妻に対しては本当に厳しく、性格まで変えろと指導をしてきました。キャッチャーだった僕が、キャッチャーが一番こたえるであろう精神的な追い込みをかけながら、これが正解なのか不正解なのかというのは自分の中でも非常に怖くて不安でした。

 それを東妻が乗り越えてくれたというか、彼自身の頑張りで結果を残してくれたので、僕自身が勇気づけられましたし、少しホッとしています。本当に苦しかったんで、東妻も僕も」

「心配性」を自覚する監督は、「でもまだまだ発展途上の選手。慌ててしまったり、弱気な部分が出ることがある」と注文をつけずにはいられない。それでも、期待感がのぞく。

「全国の優勝校が出てくる甲子園で、どういうアイデアを出して、どういう野球観で投手陣をリードし、守備を動かすのか。僕としては最後の、東妻のその部分というのを、期待して、けれども、裏切られるというのも想定しながら(苦笑)、見たいと思います」

 二人三脚の集大成となる甲子園。智弁和歌山は8月8日に初戦を迎える。

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