野球善哉BACK NUMBER
誉バッテリーを襲った甲子園の魔物。
2つのデッドボールで崩れた生命線。
posted2019/08/06 16:40
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
本来は生命線となるはずのボールがこの日は命取りになった。
2019年夏の甲子園開幕戦。県大会で愛工大名電、中京大中京などを破って初出場を果たした愛知県代表の誉だったが、八戸学院光星の強力打線の前に、完膚なきまでにやられた。
「デッドボールが全てでした」
そう杉本恭一、林山侑樹のバッテリーが口を揃えたのは、初回に与えた2つのデッドボールだ。1つ目は1番の武岡龍世に、2つ目は5番の大江拓輝に与えた。
「インコースを主体にして投げようと思っていた。だから、デッドボールになっても多少はいいと思ったんですけど、怖がってしまった。スライダーを投げる時はもっと腕を振らないといけなかった」
そう悔しがった杉本は、1回表に2つのデッドボールと四球で2死満塁のピンチを招くと、6番の下山昂大にグランドスラムを浴びている。スライダーがやや高めに入っての強烈な一発だった。
内を攻めて外で勝負するはずが……。
杉本の本来の持ち味は、投手の基本ともいえる「内に速く、外に緩く」を徹底するスタイルだ。八戸学院光星の左打者に対して、インコースのストレートを印象付けながら、外の変化球を低めに落として振らせる。
捕手の林山は言う。
「インコースを攻めて外で勝負する。それが愛知県大会で培ってきた杉本のピッチングだったんです。インコースの球が生命線というか、持ち味だった」
それだけに、「ストレートでも、スライダーでもデッドボールを出してしまって、(インコースを)うまく使うことができなかった」
もっとも、この試合を迎えるにあたって八戸学院光星も、杉本の投球には警戒を強めていた。杉本の投球に、強力打線を封じ込める能力を感じていたからだ。