マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校球児のスポーツ推薦に潜む危険。
自分の進路を決められない選手たち。
posted2019/07/09 11:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
もし、こんなことがあったら、どうしますか?
そう問われて、思わずうーんと唸ってしまった。
難しい質問を投げてきたのは、現職の中学軟式野球部の先生。問われたのは、その中学の卒業生で現在高校3年になる球児の「進路」について。相談を受けて困ってしまったという。
「本人には進みたい大学があって、そこで野球を続けたいという強い意志がある。しかし高校からは、お前はこの大学かこっち。どちらかを選びなさい。そういう“指導”だったそうです。本人が自分の考えを伝えて、一般入試でも希望の大学を受験したいと訴えても『お前に受かるわけないだろ!』と一喝されて、どちらか選べ! の一辺倒だったそうで。夏の予選に集中させてやりたい時に、かわいそうで、かわいそうで……」
6月から7月の初めが、高校球児の進路が「内定」する時期だということはあまり知られていない。
もちろん、一般入試組ではなく、野球部の推薦や大学のスポーツ推薦で内定する場合の話である。
大学を退学、入り直しという例も。
大学のほうから「この選手をぜひ!」というケースもあるし、高校のほうから練習参加をお願いして大学側のお眼鏡にかない、「では推薦で」というケースもあると聞いている。
「進路の選択って、本来、家庭で決めることじゃないんですか? 学校はあくまでも、その相談役というか、アドバイザー的な役割だと思ってたんですが……」
先生も、ほとほと困っている様子だった。
実は、よく耳にする話ではある。
高校から「ここへ!」と指示された大学に進んだものの、やはり納得いかぬ野球部生活に限界が来て退部、退学。結局、最初に希望していた大学に入り直した例も多い。
入り直すと言ったって、新たに入学金その他、親に負担がかかるわけで、誰でも彼でもそれができるわけもなく、同じような話で大学を中退して、繁華街の交差点でルール違反の客引きをしてるところを“御用”になってしまった悲しい例も知っている。