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高校球児のスポーツ推薦に潜む危険。
自分の進路を決められない選手たち。 

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byHideki Sugiyama

posted2019/07/09 11:00

高校球児のスポーツ推薦に潜む危険。自分の進路を決められない選手たち。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

中学、高校、大学、社会人、プロという巨大な野球システムの中で、人生を翻弄される選手が減ることを祈っている。

指導者は良かれと思っている場合も多いが。

「やめます、ほんとに、すぐやめます! それも、こっちがほんとに期待して推薦で獲った子が、あっさりやめる。これ、なんですかね……僕らの頃はメンバーはやめなかった」

 驚きながら、憤慨しながら、そんな現状を訴える大学の監督さんも少なくない。

 なぜ、期待の星までがあっさり部を退いてしまうのか?

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 私には、わかる気がする。

 それは、「納得」がないから。入学の仕方に、納得と「必然性」がないから。

 根拠や理由もよくわからないままに、他人が決めた進路になんとなく進んでしまった結果の、気持ちわるい中途半端さと、なぜ自分がこの空間で厳しい練習に汗を流さねばならないのか……。そこに「答え」を見出だせない苛立ちとか不安定さに我慢できなくなった時、青年たちは今の環境をポーンと投げ捨てるのだ。

「自分、来たくて来たわけじゃないんで、ここ……」

 薄ら笑いしながらつぶやいたそんな捨て台詞を、直接聞いたこともある。

 一瞬は、人のせいにしてるんじゃないよ……と思いそうになったが、選手の立場ではどうにも抗いきれない「システム」に対する絶望感が伝わってきて、選手だけを責められない現状を嘆きたくもなったものだ。

「だって高校生たちは、大学野球のことなんて知らないでしょう。親だって同じですよ。六大学に行かせたいとか言いながら、6個大学を言えなかったり。そんな状況で、ご家庭で決めてくださいなんて言えませんよ、危なっかしくて。一般受験に失敗してから、どうしましょう? って言われても、もう間に合いませんからね」

 指導者の方たちは良かれと思ってそうしていることを訴えて、確かに、それはそれで一理あるのも間違いない。

選手が大学の環境に関心があるのだろうか。

 選手たち本人が、進学、進学と上を見上げているわりに「大学野球」という現場を知らな過ぎるというのも、間違いのない事実だろう。

 高校球児たちとの会話の中で、自分たちが、もう来年の今ごろはその中に身を置いているはずの世界に対して、知識も関心もあまりにも低いことに、小さな憤りすら覚えることがある。

 今の高校生はそうした無知無関心を笑いのネタにしてやり過ごそうとするが、自分自身に跳ね返ってくることを、“手遅れ”になる前に気がついてほしい。

【次ページ】 進路選択を人任せにしすぎてはいけない。

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