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ピットに持ち込まれた「改善」。
より強いチーム作りを友山副社長に聞く。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byTOYOTA
posted2019/07/09 16:30
昨年の初優勝時のトロフィーと共にル・マンのホームストレッチを走った友山副社長。
「改善」からイノベーションは生まれるか?
――とはいえ物事を変えていくのは容易ではありません。ましてやトヨタのように堅調な成長を続けている大企業であれば、従来のビジネスモデルを踏襲しよう、さらに効率を追求していこうという発想に陥りがちです。
「『イノベーション(革新)とインプルーブメント(改善)は違うんじゃないか、改善からはイノベーションは生まれないんじゃないか』とよく言われるんですけど、トヨタがやってきたことは、改善の積み重ねなんです。改善の前の段階は、イミテーション(模倣)になります。いいものがあったら、まず真似てみようと。そして次には、それをインプルーブメント(改善)していく。
でも常に改善を積み重ねていくと、ある日突然、突拍子もないものが生まれる。これがイノベーションだと思うんです。
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だから僕は常に新しいことをやろうとか、人が考えていないことをやろうとかいう気持ちはまったくなくて。昨日やってきたことを今日はもっとよくしよう、今日やっていることよりは、明日はもっとよくしようとやっているうちに、『ああ、こんなことをすべきじゃないか』といった面白いことや進化が生まれるんでしょうね」
――ビジネスに関してもクルマづくりに関してもですか?
「ええ、そこはまったく同じですね」
「すべて改善活動なんです」
――GAZOO Racingのオペレーションにも、そのような発想が活かされていると。
「昨年トヨタは実に20回目の挑戦、足掛け34年の挑戦で初めて勝ちました。
それ以前の人達は、少しでも速い車を作ろうとしていた。技術イニシアチブで、1秒でも速い車を作ろうとしていたんですね。
でも僕の担当になってからは、速さじゃなくて24時間生き残れる車を作ることを目指した。そこで実際にやったのは、過去のトラブルや想定されるトラブルを2000項目も挙げて1つひとつ実際に再現しながら、どういうふうに改善するかという改善案を出していくことだったんです。その上で最後は、起こること自体を改善できないトラブルについては、問題が起きても必ずピットまで帰ってくるにはどうしたらいいかを考えていくようにした。これらは、すべて改善活動なんです」
――改善の伝統は、レースの現場にも生かされているということですね。
「ええ。そういうことをやると、意識も変わってくる。それまではドライバーはドライバー、メカニックはメカニック、エンジニアはエンジニアとみんなが最適なことをやろうとしていたんですが、それぞれの間には壁があったんですね。
でも(GAZOO Racingでは)、コース上でフロントのスポイラーがずれた場合を想定して、あの中嶋一貴でさえ自分でクルマを降り、パーツをはめ込んでから帰ってくるような練習をするようにした。それを見ていると、エンジニアたちもこうすればもっと早くスポイラーが外せるとわかるようになる。そこで初めてドライバーとメカニック、そしてエンジニアの連携が生まれ始めたんです。
組織を強くする、強いチームを作るのに必要なのは、やはりレースで生き残るというような共通の価値観であり、それを実際に実現するための改善活動になる。そういう努力を続けることによって、イノベーションのようなものが生まれてくるし、強い組織になっていくんです」