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<「2019世界柔道」直前インタビュー vol.4>
未来を背負う気鋭たち。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/07/18 11:00
左から、女子57kg級・芳田司(コマツ)、女子48kg級・渡名喜風南(パーク24)、男子81kg級・藤原崇太郎(日本体育大学3年)、男子90kg級・向翔一郎(ALSOK)。
藤原崇太郎の“悪役”仕込みの裏投げ。
男子81kg級の藤原崇太郎は幼い頃、悪役に惹かれがちな子供だった。
『アンパンマン』を見ればばいきんまんに興奮し、『ウルトラマン』を見れば怪獣のおもちゃを集め始めた。
「悪者が好きなんです」
藤原自身は悪者とは思えないが、その柔道はアンチヒーローを好む資質抜きには出来上がらなかったかもしれない。
野村忠宏が好きだった両親の影響で柔道を始めたのが6歳の時。憧れの対象は必然的に野村となり、小学校時代は野村ばりに背負い投げを得意としていた。それが変わるきっかけの1つが人気漫画『柔道部物語』との出会いだった。
藤原は例のごとく、そこに出てくる敵役の西野新二に惹かれた。
「西野の柔道スタイルはいろんな技をするんですよ。しかも力が強くて、大きい相手をパワーとスピードで裏投げとか大外刈りとかで投げ飛ばす。それがすごくかっこいいなと思った」
得意技である裏投げは西野の影響で中学から始めたものだという。
「体型の変化やケガでも柔道が変わっていきました。距離を取るよりも少し間合いを縮めて近寄った方が自分の力が生かされるんじゃないかと」
目指す柔道スタイルは一匹狼?
そのスタイルを突き詰め、昨年の世界柔道では初出場ながら銀メダルを獲得した。しかし延長戦にもつれ込んだサイード・モラエイ(イラン)との決勝では、最後にその裏投げを返されて敗れた。さらには1カ月後の学生の大会で左肘を完全脱臼して約4カ月以上の戦線離脱を余儀なくされた。
「世界柔道で負けてすぐのケガだったので、悔しくて練習したい気持ちがあるのに練習できなかった。それでも自分の弱点を見つけて少し克服する時間にできたと思う」
技術面の改善だけでなく、練習内容にもメリハリをつけ、一本調子の稽古ではなくその日の心身の状態に合わせて取り組むようになった。「いい意味でも悪い意味でも濃かったなと思う」という1年間の経験は藤原を一回り大きく成長させた。
2度目の世界柔道、その先に目指す東京五輪という舞台を通じて、藤原という柔道家はどんな存在として認知されていくのだろう。
「自分がどうなりたいかは分からない。でも周りからあまりいい評価を受けていない選手が勝ってすごく強いみたいな、そんな一匹狼的なところがあるとかっこいいなと思う。真似はできないかもしれないけど」
思い描くイメージにはやはり子供時代に愛したキャラクターたちの面影が残っている。