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<「2019世界柔道」直前インタビュー vol.5>
悔しさをバネに這い上がる。
posted2019/07/25 11:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Takuya Sugiyama
どん底に落とされたような気分を味わっても、そのままで終わるわけにはいかない。
彼女たちは、悔しさを糧に、再び立ち上がり、栄光を目指して進んできた。2017、2018年世界柔道連覇。2年続けて世界ランキング1位。女子70kg級の新井千鶴は第一人者として、同階級の頂点に立つ。
「ちっちゃなときから地道にこつこつやってきて、ここまで来ました。なりたい自分を思い描いて、できると思い込んで。信念と言っていいと思います」
地道な努力とともに、柔道人生を支えてきたもう1つの原動力がある。
「小さい頃から、指導者の方に無理にやらされるのではなく、小さいながらに強くなるためにどうしたらいいかを考えながらやっていました。中学、高校でも強制的ではなかったので、練習方法を考えたり、人の練習から学んで取り入れたり。自分で考えるという力が培われたと思います」
世界女王・新井千鶴にとっての苦い思い出。
今でこそ、世界チャンピオンの称号を手にする新井だが、苦い思い出がある。それは2015年の世界柔道だ。
「5位に終わったあの大会、悔しさは今も忘れないというか、世界柔道を連覇しても、あそこで勝てなかった自分を今でも思い出すというか」
それはリオデジャネイロ五輪の前シーズンでもあった。世界柔道での成績が、五輪代表選考に大きくかかわることを承知していた。代表になれなかった要因は世界柔道の結果も大きかったと、思う。
「目の前にぶら下がっていた五輪の代表権をとれなかったというのがショックだったし、とりきれなかった自分にものすごく腹が立って、けっこう落ち込みました」
五輪代表を逃した2016年は、大会に出ても初戦敗退が続いた。
「『終わったな』と思いました」
それでも吹っ切れるときが来た。これ以上同じことをしても勝てないから、すべて変えるつもりで取り組もう、そう思った。
「組み手も技も体力面も、自分を一から改革していこうと思いました。そういう意識がいい方向に向いたと思います」
そのとき、地道に努力を重ねる姿勢と、自ら考える力が支えとなった。こうした時を経て、世界柔道連覇を果たすまでに至ったのである。目前には、再び2019世界柔道が控える。今回は2015年と同じく、五輪前年の大会だ。五輪代表選考に結びつく重みを自覚しつつ、抱負を語る。
「3連覇という挑戦は、あのときの自分を超えていく挑戦でもあります。あの頃の自分ではないこと、いろいろ身につけて、さらに強くなった自分であるところをしっかり見せたいと思っています」