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NIPPOが劇的区間V、初山も完遂。
ジロで躍動した日本人の舞台裏。
posted2019/06/08 08:00
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Bettini / NIPPO - Vini Fantini - Faizane
5月11日から6月2日にかけて開催された第102回ジロ・デ・イタリアは、サプライズに満ちたグランツール(世界三大自転車ロードレース)となった。
全21ステージの総距離3537.6キロを最短時間で走破したのは、地元の英雄ビンチェンツォ・ニバリ(総合2位)でもなければ、注目のスロベニア人プリモシュ・ログリッチ(総合3位)でもなかった。ベローナの表彰台で勝者のみに着用が許されるマリアローザ(ピンク色のジャージ)に袖を通したのは小さな伏兵だ。
26歳のリカルド・カラパスは並み居る優勝候補たちを抑え、エクアドル人として初めて個人総合優勝を果たし、三大ツールで自身初勝利を挙げた。
初山に手渡された黒色のジャージ。
ベローナの円形競技場「アレーナ」に詰めかけた熱狂的な自転車ファンは、総合142位の日本人にも拍手喝采を送った。
最終完走者(最下位)に贈られるマリアネーラ(黒色のジャージ)を着せられた「NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネ」の初山翔は照れ笑いを浮かべて、歓声に応えていた。
恥ずべき賞ではない。
毎年のように用意されるジャージではなく、最後まであきらめない姿勢を示し、レースを沸かせた頑張りが大会主催者に認められたのだ。第3ステージで144キロの独走、第10ステージでは115キロの華麗な逃げを決めて一躍脚光を浴び、イタリアでの知名度は一気に上がった。
第3週目の最も厳しい山岳ステージの峠では、必死にペダルを踏む初山を鼓舞するファンの声援が響いていたという。判官びいきもあるのだろう。イタリア語を流暢に話し、地元メディアの取材に丁寧に応える日本人。世界トップカテゴリーのワールドチームではなく、その10分の1前後の運営予算で戦うプロコンチネンタルチームに所属。しかもイタリア籍のチームとくれば、好感を持たれる要素はそろっている。
「頑張れ、ショウ。行け、ハツヤマ」
チームカーのハンドルを握り、無線で初山に指示を飛ばしていた水谷壮宏監督は、車越しに大きな声援を何度も耳にした。「あのマリアネーラは最後まで耐え抜いた証です」とあらためて健闘を称えた。NIPPOのイタリア人スタッフたちも誰もが認める存在となり、表彰式に用意していたシャンパン3本のうち1本は初山が開けた。