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NIPPOが劇的区間V、初山も完遂。
ジロで躍動した日本人の舞台裏。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byBettini / NIPPO - Vini Fantini - Faizane
posted2019/06/08 08:00
第18ステージで逃げ切ったNIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネのダミアーノ・チーマ。チームとして初の区間賞を獲得した。
大声で叫んだ「フルガス!」
第18ステージは序盤からNIPPOのイタリア人、ダミアーノ・チーマを含めた3人の逃げが決まる。中盤になっても、総合優勝を争うトップチームを含む集団とのタイム差をキープしたままだ。
いよいよフィニッシュまで残り50キロ。
逃げの3人と集団とのタイム差は約4分だった。残り40キロになってもそれは変わらない。時計を見て何度も計算した。後続集団に10キロで1分縮められても、勝機はある――。
「集団も疲れていると思った」
水谷監督は集団のペースが徐々に上がってくるのを確認し、冷静に状況を選手に伝え続けた。逃げに乗った3人は、暗黙の了解で協調。ローテーションを組んで、風よけになる先頭を交代し、力を蓄えながらペダルを踏んだ。
残り17キロ付近。チームカーから給水ボトルを渡す最後のときだ。窓を下げると、強い風が吹き込んできた。時速は45キロ前後。車も自転車もスピードが上がり、ボトルを手渡しするのもやっと。水谷監督は激しい風音にかき消されないように大きな声で叫んだ。
「フルガス(全開だ)!」
逃げ切ったNIPPO、初の区間優勝。
残り10キロ地点で後ろからトップチームの集団が迫ってきたため、チームカーは先頭3選手の伴走から外れた。風を切って突っ走るチーマの姿はどんどん小さくなる。車内ではテレビモニターは映らず、戦況を伝えるラジオの調子も悪い。
気になる最後の展開は――。
水谷監督はたまらず自宅のフランスへ電話をかけ、状況を確認した。フランス人の妻からテレビの実況をリアルタイムで伝えてもらい、迫りくる世界のトップスプリンターたちから逃れ、NIPPOのチーマがそのまま1位でフィニッシュしたことを聞かされる。
「あの瞬間、チームカーの中で雄叫びを上げましたよ。うぉーだったかな、やったーだったかもしれない(笑)。これまでの人生で、あれほど喜んだことはないかもしれません。まさか、グランツールで勝てるなんて、本当に信じられない気持ちでいっぱいでした」