オリンピックへの道BACK NUMBER
やり投げ日本新・北口榛花の履歴書。
競泳と掛け持ち、チェコ修行で開花。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2019/05/15 07:00
現在21歳の北口、投じた直後は「頼むから(日本記録に)いってて」と願ったという。
故障、恩師の退任……。
それでも将来を嘱望される存在に変わりなかったが、その後の足取りはここまでの軌跡とは一転する。記録が伸び悩み、'17年の日本選手権は6位にとどまり世界選手権代表入りを逃すと、涙を流した。昨年の日本選手権では3回目までに8位以内の記録を残せず、4回目以降に進めずに終わった。
不振の理由は、故障やリオに出られなかったことから来る失意、さらに大学で指導を受けていた男子やり投げの第一人者・村上幸史が'17年で退任したことがあった。
「頼る相手が誰なのか、分からなくなった」
本人は当時についてこう語っている。
「このまま駄目なのか」
そんな声も周囲から聞こえた。だが、今回の日本新記録で、長いトンネルから脱したことを示してみせた。
単身で強豪国チェコへ。
そのきっかけとなったのは、昨年、やり投げの強豪選手を数々輩出してきたチェコのコーチと知り合ったことにあった。
「コーチをしてほしい」
メールで必死に交渉し、ついに承諾を得ると、今年2月、単身チェコに渡り指導を受けることになった。助走の歩数、フォームなど細かなところまで技術を教わった。それが低迷からの脱出はおろか、進化した姿へとつながった。
2シーズン苦しんできた時間があればこそ、乾いたスポンジのように教わったことを吸収できたのかもしれない。低迷に陥る前の上り調子のときであれば、そこまで吸収することはできなかっただろう。そう考えてみれば、教わるタイミングのよさとその重要性がそこにうかがえるし、強豪国の指導力もまた、見て取ることができる。