プロ野球PRESSBACK NUMBER
「ボロい」と言われた西武練習場と、
栗山巧、中島裕之……若獅子の秘話。
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKyodo News
posted2019/05/02 11:30
2000年代の西武を支えた栗山巧と中島裕之。二軍での鍛錬があったからこそ今も現役を続けている。
意地で練習をしていたあの頃。
昨シーズン、ライオンズが優勝を争っている終盤、球場に顔を見せた星秀和氏に「室内練習場が新しくなりますね」、「泣きながら練習していたときがありましたね」と話を振ると、感慨深そうに振り返っていた。
「あのときは意地みたいなもんでしたね。自分が先に倒れるか、ボールを出してくれている田邊さん(徳雄二軍コーチ・現チームアドバイザー)が先に倒れるか、どっちが先かという感じでした。懐かしいですね」
付き合うコーチも根気強かった。
ただ、誤解を避けるために書くと、やみくもに長い、苦しい練習を称賛しているのではない。
マシンで打ち込む姿、ネットに向かってスローイングをしている姿を見ているうちに、「こんな課題に取り組んでいるのかな」とか「バッティングフォームを改造しているのだな」などと選手やコーチの意図が見えてくる。意図を持って練習することが重要なのだと筆者が気付かされる機会が幾度もあった。
「バットを振らないと眠れない」
夕食を終えたあとの自由時間に、室内練習場に向かい、練習する選手も多い。全体練習の直後や、一軍の試合終了直後は2台しかないマシンを先輩が使用しているため、若手はその練習が終わったあとに使うことになる。
最近では愛斗、山田遥楓、西川愛也などの若い寮生がそうだ。夕食後にインタビューの時間をいただき、その取材を終えたあと、駅に向かうため室内練習場の前を通ると、バットを持った若手野手によく出くわす。
今シーズン、開幕一軍を勝ち取った愛斗は、過去こんなことを語っていた。
「寝る前にバットを振らないと眠れないんです。『これだけ練習したんだから、自分は大丈夫だ』って、自信を持って打席に立ちたいので」
古い、ボロいと言われ続けてきた室内練習場だが、こうして若い選手の鍛錬の場となり、彼らの成長を見守ってきた施設がもうすぐなくなってしまうかと思うと、少し寂しい。
冒頭にも書いたが、見られることで自覚し、飛躍する選手は多いと筆者も感じている。6月、新室内練習場が完成した際には、足を運んで未来のスター選手を観察してみてはいかがだろうか。そして将来、「あの選手は、若いときはこんな練習をしていたよ」と、未来のライオンズファンへと語り継いでほしい。