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リリースが「前」で、球も速い。
SB高橋礼は東京五輪の“秘密兵器”。 

text by

田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byKyodo News

posted2019/04/24 10:30

リリースが「前」で、球も速い。SB高橋礼は東京五輪の“秘密兵器”。<Number Web> photograph by Kyodo News

2017年のドラフト2位で入団した高橋礼。今季はプロ初勝利から4連勝を飾っている。

相手が嫌がることをする。

 また、高橋礼が勝てている理由を探ると、彼のマウンドでの思考法がじつに興味深い。

 今春キャンプの練習試合登板後のコメントを聞いて、なるほどと納得した。

「まだフォームで納得していない部分は大きかったです。でも、試合の中でそれは関係ないと思っています。気持ちよく打たせないのがアンダースローの特長。自分の感触は良くなかったけど、相手バッターの反応は嫌がっているように感じました。言ってしまえば、僕には『自分』というものがない。バッターが嫌がるのが自分のやるべきことなんです」

 近年はフォームに拘る投手が多い。ホークスでもブルペンには大きなモニターが設置されるようになった。投げてから数秒遅れで撮影したものが流れるために投手陣には大変好評だ。いかに自分の身体にあった的確な使い方ができるかは大切だ。ボールのスピードも質も変わってくるし、故障のしにくさにも繋がってくる。この考えが浸透しているのは実に正しいことだ。

 しかし、試合中のマウンドにもそれを持ち込む投手も多くなっている。

 プロ野球ではないが、ソフトボール金メダリストの上野由岐子から聞いた言葉を思い出した。

「ブルペンで求める100点と試合中の100点ってまったく違うんです。練習は自分が納得できればいい。だけど、試合では自分がどれだけ気持ちよく投げたところで打たれてしまったら何の意味もないんです。どれだけ違和感があったとしても、ゼロに抑えればそれが正解なんです。たぶん国語と算数で100点を目指すくらいの違いがあるんじゃないですかね」

高橋が叩きだした数字。

 高橋礼が意識をするのはテンポのよさだ。彼が投げる試合はとにかく進みが早い。プロ野球の特別表彰の中には「スピードアップ賞」なるものがあって、無走者時の投球間隔時間がその基準となっている。昨年の投手部門、セ・リーグが三上朋也(DeNA)で10秒4、パ・リーグが多和田真三郎(西武)の11秒1だ。

 ホークスでは石川柊太も「とにかく早い」に拘っていて、「規定に満たなかったけど、9秒台前半だったんです」と豪語していた。4月21日、メットライフドームで先発した高橋礼のそれをいくつか計測。すると、いきなり1回裏、2番源田壮亮の場面で「8秒96」というとてつもない数字を叩きだしたのだ(筆者計測)。

【次ページ】 相手の揺さぶりにも「テンポを崩さない」。

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