ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
マスターズがスマホを禁止する理由。
手動のスコアボードを見つめる興奮。
posted2019/04/20 08:30
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph by
AFLO
地下鉄の車内でふと周りを見渡すと、人々がみな首を折って、手元のスマートフォンに目をやっている。数年前、いや十数年前までなら、異様な光景だったかもしれない。そんな風に思った数秒後には自分もその仲間に加わっていて、我先にと情報を漁り、話題を当てもなく誰かと交換している。
携帯電話が生活必需品のひとつになって、社会は仕組みを変えた。スポーツの世界でもそれは同じで、例えばゴルフトーナメントの観戦においても、いまやスマートフォンは実に有益なものになった。
とくにゴルフは、広大なフィールドで選手がてんでバラバラにプレーを展開するため、スマホは優れた情報ツールになる。現地でお目当てのプロが何番ホールでプレーをしているのか、現在の順位やスコアはいくつなのか。ネットを通じたサービスは欠かせなくなった。いまや選手情報は“手元”で即座にキャッチするもの。PGAツアーでは1ショットごとに、ボールがどこに飛んだか分かるレーザー計測システムもあるほどだ。
そして、優れたカメラ機能によって、誰もがスポーツシーンの決定的瞬間を収められるようになった。他競技に比べ、プレー中の選手に近づけるのはゴルフ観戦の醍醐味のひとつ。プロのスイングを間近で撮影し、自分のプレーの参考にするファンも多い。日本とは違い、諸外国のスマホのカメラはシャッター音が鳴らないよう設定できるため、ゴルフ観戦の「お静かに!」のルールを破ることもない。
マスターズは携帯持ち込み禁止。
しかし、1934年に始まった男子メジャー・マスターズはいまも来場者に携帯電話の持ち込みをかたく禁じている大会だ。
また、世界の多くのツアートーナメントでは、コース内に電光掲示板を配置して、選手個々の順位をその都度知らせているが、マスターズはそこも違う。現在も伝統的な白い巨大スコアボードを、ボランティアスタッフが手動で動かす。毎年約80人が出場するが、名前とホールごとのスコアが掲示されるのは主に上位でプレーしている10人だけである。