ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
マスターズがスマホを禁止する理由。
手動のスコアボードを見つめる興奮。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2019/04/20 08:30
マスターズの白いスコアボードはもはや名物。不便ではあるが、そこには伝統と風情があるのだ。
ウッズのスコアボードに爆発的な歓声。
2019年4月14日。
タイガー・ウッズが14年ぶりとなるマスターズ5勝目、11年ぶりのメジャー通算15勝目を飾った。ゴルフ史に残る一日は、夕方の悪天候予報を警戒して、上位の組も午前中にスタートする異例の形で始まったが、興奮の絶頂は今年もサンデーアフタヌーンにあった。
最終組で首位の背中を2打差から追ったウッズが、上位のままプレーを続けると、上空を鉛色の雲に覆われたオーガスタナショナルGCは異様な雰囲気に包まれた。
5万人近いと言われるパトロンは終盤、各ホールに陣取り、スーパースターがやってくるのを今か今かと待つ。その際、ウッズのスコアを把握する術はグリーン脇に設けられたあの巨大スコアボードしかない。目の前で展開される別の選手のプレーを横目に、アナログな速報板の動きの気配をつぶさに観察している。
ウッズのスコア欄の看板が人の手で数字に入れ替えられる。すると、たちまち爆発的な歓声が沸き起こる。
バーディだ!
パーだ!
リーダーのモリナリがダブルボギーだ!
ついにトップに立った!
コース内にそびえる複数のスコアボードは、手動ゆえ一斉に動くわけではない。その興奮と歓声が、数秒ずつのタイムラグを伴って各ホールのグリーン脇で爆発した。
ケプカ「最高の選手と戦えた」
最終組のひとつ前の組でプレーしていたブルックス・ケプカは12番でダブルボギーをたたきながら、続く13番でイーグルを奪うなど終盤ウッズに食い下がった。
「タイガーへの歓声はいつだって大きい。彼が何かをしたとき、バーディだとか良いプレーをしたときは、いつも轟音が響く。(ケプカが優勝した昨年の)全米プロでもそれを聞いたし、ここでもそれを聞けた。ボードのスコアが目の前で動くたびに大きな声援があがった。その様子を見るのも、最高の選手と戦えたのも楽しかった」
人々がみな、スマホのアプリではなく、巨大な速報版を見上げてその思いを同じにする。別のホールで起こっていることを想像し、大きな期待を抱き、固唾をのんで赤い字で記されたスコアの動きを待っていた。