Number ExBACK NUMBER
昭和の王貞治、平成のイチロー。
記録に挑み続けた2人の野球愛。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/04/16 17:30
ダイエーホークスの監督時代は敵チームで苦しめられ、WBCでは監督と選手として一緒に優勝の歓喜を味わった。
敵として、味方として感じたイチロー。
「自分で言うのはわからないけど、僕はホームランというところでは他の選手に比べたら図抜けた数字を残した。イチローも孤軍奮闘、自分との戦いでね。人に相談しても相談相手からいい答えが返ってくることが期待できないレベルに行ってしまっていた。だから、王さんはどんな戦いをしていたんだろうという思いが彼にはあったかもしれないね」
ダイエーホークスでは敵軍の選手として苦しめられ、WBCでは味方として戦う頼もしさを味わった。このとき特に印象に残っているのは、誰よりも入念に練習や試合に備える日々の姿勢だったという。WBC2次リーグではアリゾナにある自宅から通っていたイチローは、チームバスの到着よりもずっと早くグラウンド入りし、黙々とウォーミングアップをこなしていた。
「全体練習が始まる30分前にバスが着くと、もうカンカンと音をさせて打っていたり、ストレッチをやったりね。我々の1時間ぐらい前から行ってたんだろう。とにかく準備、備えるってことにものすごくこだわった選手。あそこまで準備に意識をもってやった選手は過去に見たことがない。僕自身も含めてね」
イチローのヒット場面に見入った王貞治。
王が感銘を受けたのは実際に接した時ばかりではなかった。イチローの全安打をまとめた特集番組を見た時は、左右長短を自由自在に打ち分ける打撃術にあらためて見入った。
「あれはすごかったね。ヒット場面だからそれはすごいに決まっているんだけど、あらかじめコースを狙って打っているようにも見えるよね。ボールというのは見えれば打てるものなんだけど、普通のバッターだったら絶対にあっちにいかないだろうという球を三遊間に打ったりしていた」
王が見たのは2016年にNHK BSで放送されたメジャー通算3000本安打達成の記念番組のことだと思われる。王ほどの存在がまだそうした番組を熱心に見ている上に、そのことを嬉々として話す様子は少し不思議にも思えた。ただふんぞり返っていたって、もう誰も文句は言わない立場のはずである。
「いや見ます、見ますよ。いいものはいいんだから。それを見て得るものがあったらね。今の選手たちもつまらない番組を見るよりは、何か学べるものがもし流れていたら絶対に見るべきですよね」
それもまた愛、野球が飽きないからに違いない。
「ましてや今は自分が試合をしている最中でも録画ができるでしょう。そういう意味での貪欲さは、上(のレベル)に行った選手ほどある。そこにたどり着けない人はそれなりの脇の甘さがあるよね」