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昭和の王貞治、平成のイチロー。
記録に挑み続けた2人の野球愛。
posted2019/04/16 17:30
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Takuya Sugiyama
28年間の現役生活で貫き通せたものは何か。
3月22日の引退会見で、イチローはじっくりと考えてから納得したようにうなずいて答えた。
「野球のことを愛したことだと思います。これは変わることはなかったですね」
イチローが野球への愛情を口にしたのはこれが初めてではない。2006年のWBCでともに戦った王貞治との交歓をテーマにした過去のNumberの記事にこんな発言が出てくる。
「刺激なんて、自分の中から出てくるんですよ。だって、野球が大好きなんですから。ここは間違いなく、王監督と僕の相通じるところだと思います。大好きってみんな簡単に言うけど、そう見えない。楽しそうに見えないんです。」(Number751号『超えた者だけ見える道』)
「僕はもっと下世話な言い方でね、飽きない」
イチロー引退の10日後、ヤフオクドームにその王貞治を訪ねた。イチローの多大な功績について聞きながら、彼が口にした野球への「愛」についても尋ねてみた。すると王にもそのあたり思い当たる節はあるようだった。
「愛情という言い方はあれだけどね、僕は飽きないんだよ。とにかく野球が飽きない。またやりたい、もっとやりたいと思う」
自分が打席に立つ。それだけでなく、野球というゲームの魅力は何年経っても、どんな立場になっても尽きることがないのだという。だからおざなりにできずに打ち込んでしまう。
「ほかのことはいい加減なんだけど、やっぱり野球だけはもう。イチローは愛という言葉を使ったけど、僕はもっと下世話な言い方でね、飽きない。逆に言えば自分には野球しかないということも言えるけどね。またやりたいっていう思いが常にあるから、こんな歳までずっと野球に関わってきてしまったんだ」
昭和の時代にホームランによって記録を超えるカタルシスを知らしめ、世界記録を打ち立てて日本中を沸き立たせたのが王だった。平成の時代にヒットによって再びそのカタルシスを呼び覚まし、メジャーの分厚い壁をも突き破ったのがイチローだった。
似たような、かつ極めて特殊な状況に身を置いたスーパースター同士だからこそ、2人だけに響きあうものがあるのだろう。33も歳が離れていながら、プライベートでも食事をともにするなど親交を深めてきた。