Jをめぐる冒険BACK NUMBER
ザックとハリルの真似だけじゃなく。
レノファ霜田監督を支える発想力。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/03/27 17:05
2019年の開幕5試合は1勝4敗とやや出遅れたが、霜田監督とレノファには目指す哲学がある。
「工藤の復活が命運を左右する」
――今、名前が出ましたけど、工藤選手を獲得しました。Jリーグ復帰後、苦しんでいる彼を、どう再生させますか?
「人間的に素晴らしい選手で、まず僕が彼の人間性をリスペクトできるというのが前提としてあって。工藤のことは代表時代しか知らないんだけど、すごく献身的だったんです。右サイドでのプレーを求められても、ちゃんと期待に応えてくれて。
もちろん、代表に選ばれるだけの実力を備えているんだけど、チームのために戦える選手だから、山下や高井のお手本になってほしいなって。それに、まだ28歳で、もうひと花咲かせてほしいとも思っていて、そういう話をしたら、『山口で頑張りたい』と言ってくれた。
彼の復活が今年のチームの命運を左右する。それぐらいの覚悟で僕は彼に声を掛けました。だからと言って、ポジションを保証しているわけじゃないから、工藤も毎日必死にやっているけど、すごく楽しそうだし、1点取ってケチャップの蓋が開いたら、ドバドバと出るんじゃないかな」
――今、溜まりに溜まっているところですよね、おそらく。
「だから、我慢をしながら使い続けたいと思っているし、工藤と競争することで、山下や高井、若い選手たちが成長したら、それはそれで工藤を獲得した甲斐がある。でも、工藤を獲得した一番の理由は、ストライカーとしてもう一度輝いてほしいから。献身性や守備、人間性など魅力はたくさんあるけど、やっぱり点を取ることで人生を切り開いてきた選手だから」
――では、最後に。「強化・霜田正浩」から見て、「監督・霜田正浩」に足りないもの、求めたいものは?
「もうね、自分の弱点は分かっていて(笑)。僕はやりたいことや信念をはっきり持ちたいと思っていて、リアリストかロマンチストかで言うと、ロマンチストのほう。でも、負けるのも大嫌いだから、この先リアリストに徹しなきゃいけない場面も出てくると思うんだよね。それができるかどうか。1年目はブランディングするために極端なことをやる、と言い訳もしてたから」
――この先、結果が問われるようになったとき、リアリストに徹することができるか。
「そう。結果にこだわれるか。自分を殺せるか。もちろん、そうしないで勝つのに越したことはないから、まずは自分の思い描くプレーモデルにチャレンジする。だけど、例えば、昇格の懸かった大一番とか、どこかでゴール前にバス並べて守らなきゃいけなかったり、なりふり構わずパワープレーで1点を奪いにいくときがある。タイトルを獲り続けてきた鹿島アントラーズのしたたかさは、学ばなきゃいけないと思っています。
でも、したたかに勝つことばかりを考えて、自分のカラーを失いたくもない。自分の理想、やりたいことを具現化するために80%の力を使うけど、残りの20%は現実的に、みたいな。『このメンバーで勝つためには、そういうのも必要なんじゃないのか?』という天の声が聞こえたとき、『うるせえ』って振り払うんじゃなく、耳を傾けなきゃいけないな、と思っています」