Jをめぐる冒険BACK NUMBER
ザックとハリルの真似だけじゃなく。
レノファ霜田監督を支える発想力。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/03/27 17:05
2019年の開幕5試合は1勝4敗とやや出遅れたが、霜田監督とレノファには目指す哲学がある。
支えとなった社長、GM、コーチ陣。
――未勝利の間、支えになった経験、思い出した言葉、拠り所となったものはなんでしたか?
「勝っているときも、負けているときも、(河村孝)社長と(石原正康)GM、コーチングスタッフがまったく変わらなかったことかな。だから、このチームで孤独を感じたことはない。今もそうだけど、彼らには本当に助けられている。
僕は今、単身で山口に来ているけど、スタッフと食事に行くことはほとんどないんです。でも、その3か月間、みんなと一度だけ食事をしたことがあって。そこで『本当に良いサッカーをやれているし、選手たちも頑張っているから、絶対に大丈夫。これを乗り越えるためにも、俺は絶対に変えないから』と言ったら、スタッフたちが『何を今さらそんなこと言っているんですか』って」
――当然ですよ、と。
「そう。本当に嬉しかった。それに、社長とGMとは、ホームゲームのあと、必ず3人でコーヒーを飲むんだけど、彼らもまったく変わらなかった。こんなクラブ、なかなかないと思う。ホームでジェフ千葉に0-4で負けたことがあって、42試合中最悪の内容だったんだけど、社長とGMが部屋に入ってくるなり、『こんな日もありますよ』って。『これだけやられたら、あとは上がるしかないですね』って(笑)」
――快進撃を見せた前半戦と、暗いトンネルに入った後半戦。濃密な1年を過ごして、改めて監督業の奥深さや魅力をどう感じていますか?
「ありきたりな言い方だけど、天職と思えるぐらい、楽しいですね」
――そうなんですね。
「思い通りにいかないところが楽しいし、思い通りにいったときはもっと楽しい(笑)。何より、選手の成長をグラウンドで感じられるというのは、すごく楽しいかな。もちろん一緒に練習するのも楽しいし」
――あの頃、(FC東京の監督だった)原(博実)さんもこういうことに苦労していたのかとか、あのときのヴァイッド(・ハリルホジッチ)の気持ちが分かるな、とかは?
「あった、あった(笑)。当時、僕は強化の立場だから、いくらそばにいても想像の域を出なかったけど、今は僕も監督になったから、あの頃の彼らの苦労や苦悩が現実として分かるから、間違いなく、たくさんあります」
――どういうところで感じるんですか?
「プランBまでまだ落とし込めていないのに、プランAがダメになってしまったときの苦悩だったり、選手がポンといなくなったとき、既存の選手たちでやりくりすることの難しさだったり。
もちろん、参考にしていることも多いです。例えば、原さんはスペインが大好きで、デポルティーボの映像を選手に見せながら、『FC東京は首都のチームなんだから、こういうエンターテインメント性のあるサッカーをやらなきゃダメだ』って。その結果、原さん時代のFC東京は、サイドからガンガン行くチームになったでしょう。ああいうやり方は、僕の中で“すとん”って落ちていて」
――だから今、リバプールなどの映像を見せている。
「そう。あと、アルベルト(・ザッケローニ)のときの代表チームは、香川真司、長友佑都、本田圭佑たちの成長とともにチームも右肩上がりで成長していった。選手とチームの成長曲線を一緒にするアルベルトのやり方も参考になっている。
あのとき、アルベルトはこうだったな、ヴァイッドはこうだったな、というのを照らし合わせながら。でも、真似するだけじゃなく、じゃあ、俺はどうするのか。そういう発想が生まれているので、強化時代の経験はすごく生きています」