マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
2019選抜の2大投手がどっちも凄い。
完成型の奥川恭伸、素材の及川雅貴。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/03/22 18:45
2019年センバツで最も「すごい球」を投げる投手とも言われる横浜高の及川雅貴。ドラフト上位候補だ。
立ち上がりも小技対応もスキがない。
テンよし、中よし、仕舞いよし。
競馬の世界で、「名馬」に寄せられる賛辞と聞いている。
スタートで出遅れることなくダッシュが効いて、中盤もムキになることなく淡々としたペースで進み、最後の直線、一気にギアを上げて他馬を引き離して危なげなくゴールを迎える。
まさに、こんなペースで「9イニング」を投げられる投手。
たとえば、本格派にありがちな「立ち上がり」の不安定感や、小技、足の攻めに対する脆さ。多くのチームでつけ込もうとするそのあたりの対処にも、今の奥川恭伸の投球ではスキが見えない。
すでにして、“夏の完成度”といってよいこの快腕を攻略するチームはどこなのか。どんな方法で、磐石のピッチングを崩していくのか。実に興味深い。
ボールの凄まじさでは及川が一枚上か。
すごいボールを投げる。そういう意味では、奥川恭伸も間違いなくそうなのだが、「バットに当たらないボール」という意味では、横浜高・及川雅貴投手(183cm74kg・左投左打)のほうが一枚上なのかもしれない。
ブルペンでの彼のピッチングを、キャッチャーのすぐ後ろから見せていただいたことがある。
サウスポーは速く見える……これは野球界の通説だが、及川雅貴のストレートは、そんな通説を軽く上回って、とんでもなく速く見えた。毎日のようにピッチングを受けているはずのキャッチャーが、何度かミットの出し方を迷う場面があった。捕球寸前、ストレートが急に加速するように見えるからだ。
とりわけ、「クロスファイアー」だ。右打者の足元を襲うこの球筋はサウスポーの生命線だ。右投手には決して投げられない斜めの角度。このボールがきつい、きつい。
このボール、多くの高校生左腕なら、捕球寸前にスッとシュート回転して中に入ってしまうことが多いが、及川雅貴のクロスファイアーには、そういう“幼さ”がない。投げ損じがあっても、それは引っかけ過ぎ。左打者なら「ボール」になるだけで、右打者相手でも死球にはなっても「ホームラン」はない。