濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
エンタメ興行『マッスル』大爆発!
ネタ満載の中の“リアル”とは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2019/02/24 08:00
メインを終えて肩車されるDJニラ(写真左)とアントーニオ本多、彼らを讃えるマッスル坂井(中央)。彼らにしか作ることのできない空間だった。
アントンvs.ニラ、多重構造のメイン。
『マッスル』名物、クライマックスでのスローモーション(選手が実際にゆっくり動く)では、スクリーンに両者の心象風景が映し出された。
そこで明かされたのは、ニラは「アポロ・ニラ」の息子であり、アポロのライバルだったロッキー川村の教えを受けて父を試合で殺した仇敵・渡辺哲の息子であるアントンと闘っているという物語だった。
ちなみに渡辺哲はロッキー川村に敗れ、息子をファイターに育てて復讐の機会を狙っていた。ここにきての『クリード 炎の宿敵』ネタ。開会宣言での宇多丸の言葉が伏線だったことを観客は知る。
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ここでもう1つ、観客は思い出したはずだ。アントンが『クリード 炎の宿敵』に大感動し、特に敵役であるイワン・ドラゴ(ドルフ・ラングレン)に感情移入していたことを。彼は長年のドルフファンで、『ロッキー4』後の不遇時代もドルフを見守り続けていた。
誰も負けなかった、美しい結末。
いったい何重構造なのか。『マッスル』は『ロッキー』であり、そのリングで『クリード 炎の宿敵』がモチーフとなり、その映画で復活を果たしたドルフ・ラングレン演じるドラゴと息子ヴィクターに、渡辺哲とアントン親子が扮する。
ドルフが『クリード 炎の宿敵』で光を浴びたように、アントンは『マッスル』両国大会で光を浴びた。もはやネタも実人生も混然一体となって、我々はひたすら心を打たれた。笑いながら。
試合はパンチの打ち合いからダブルダウン。両者のセコンドが同時にタオルを投入して引き分けという結果になった。誰も負けなかったのだ。試合後にはセコンド同士も抱き合った。
公開中の映画のことなので詳しくは書けないが、これは“ドラゴ親子に肩入れした俺たちが見たかった、もう1つの『クリード 炎の宿敵』”だ。『マッスル』というプロレスイベントは、とうとうアントンと坂井の“脳内映画”まで見せてしまったということか。