濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
エンタメ興行『マッスル』大爆発!
ネタ満載の中の“リアル”とは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2019/02/24 08:00
メインを終えて肩車されるDJニラ(写真左)とアントーニオ本多、彼らを讃えるマッスル坂井(中央)。彼らにしか作ることのできない空間だった。
本物の引退やスキャンダルで遊ぶこと。
今大会では、登場人物たちの“人生の節目”も描かれた。それは、チケット代に見合う「プレミアム感」を演出するための手法でもあった。
マッスルメイツの1人、ペドロ高石は引退試合を行うも6人タッグマッチでほとんど出番がなく、異例の再試合へ。2試合目でMMAファイターの青木真也と対戦した。
引退式も都合2回。『マッスル』ならではの展開だったが、しかし高石の引退は本当だ。ボロボロになりながら青木に食い下がる姿、引退式で息子と抱き合う姿は、やはり本物の“感動の引退”だったのである。
ADVERTISEMENT
年明け早々、スキャンダルでメンバーが脱退した純烈には、「新メンバーオーディション2019 時間差入場バトルロイヤル」が用意された。「あくまで4人で紅白再出場を目指したい」という酒井も、8年あまりのブランクを経て「酒井一圭HG」として試合に参加した。
優勝したのは身長3mのアンドレザ・ジャイアントパンダ(新根室プロレス)。新メンバーとして加入すると、さっそく5人(4人と1頭)で歌を披露し、バックステージでは芸能マスコミに囲まれての会見も行われた。
が、大会エンディングでアンドレザの“不倫問題”が発覚(プロレス大賞授賞式で女子レスラーの藤本つかさにキスをしていた。ちなみにアンドレザは妻子ある身)、即座に脱退となったのだった。
これもまた、純烈のスキャンダルをネタにすることが“本題”ではなかったはずだ。大事なのはネガティブな出来事に向き合って、メンバーが遊ばれること。「そこまでやるか純烈(笑)」という反応が最高の“禊”になるのだ。
芸能レポーターに、昔の仲間(レスラーたち)からどんな激励を受けたかと聞かれた試合後の酒井は、文字通り胸を張ってこう答えた。
「それはもう、この赤いチョップ(の痕)です。技の数々が“頑張れよ”っていうメッセージというか。プロレスってそういう素晴らしさがあるんです。プロレスを通して激励されました」
「一番のビッグゲストは両国国技館という会場」
メインイベントはアントーニオ本多vs.DJニラ。普段のプロレス興行では前半戦でコミカルな試合を担当することの多い2人が、ビッグマッチのメインである。小会場のインディー興行なら珍しくないカードが、両国メインというシチュエーションで“意外性抜群のエモーショナルな顔合わせ”になった。坂井は言う。
「今回の一番のビッグゲストは両国国技館という会場なんですよ」
試合前の“煽りパワポ”で坂井は、アントンの魅力を「その魅力を一言で伝えづらいこと」だとプレゼンした。そして「ひょっとして、両国のメインで試合をしたら人生が変わるかもしれない」と。
アントンは実の父である俳優・渡辺哲をセコンドにつけた。ニラのコーナーにはパンクラスのロッキー川村。2人は大舞台のメインイベントで、全力を出し尽くした。だがそれは“シリアスでハイレベルなファイト”ということではなかった。いつも通りの彼らを全開にして、そのことで観客をこれでもかというほど楽しませたのだ。
アントンはワンショルダーのコスチュームから乳首をちらつかせてニラを動揺させ、ニラは思い切り飛び上がって延髄斬りを放ったかと見せかけて足を蹴った。いわばジャンピング・ローキックである。足4の字固めをかける要領で自分がかかり、そこから体勢を裏返してダメージを与えるという、手の込みすぎた攻撃も見せた。
ひたすらバカバカしくて、しかしそれを両国のメインでやっていることに価値があった。逆に言えば、両国のメインなのにいつも通りなことに意味があった。アントンは大会2日前、公式サイトのコラムでこう書いている。
「わたしの名前はアントーニオ本多。
一般的なプロレスファンからは揶揄されることも多々ある、しょうもないお笑いレスラーだ。
わたしはそれを、本当に、心から、誇りに思っている」