濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
エンタメ興行『マッスル』大爆発!
ネタ満載の中の“リアル”とは?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2019/02/24 08:00
メインを終えて肩車されるDJニラ(写真左)とアントーニオ本多、彼らを讃えるマッスル坂井(中央)。彼らにしか作ることのできない空間だった。
メインストリームではない選手たちの集合。
マッスルメイツと呼ばれるレギュラーメンバーには、ストレートな意味で“実力”を評価されている選手がいない。坂井にせよ男色ディーノにせよ、プロレス界のメインストリームでトップを張るようなタイプではないのだ。
そんな選手たちが知恵とセンスと自分をさらけ出すこと、プラス良識派に怒られる覚悟をもって築いた異形の城が『マッスル』だ。しかしそれは“歌舞伎と同じ値段のエンターテインメント”になりうるのか。
1つの武器は、話題性のあるゲストたちだった。紅白歌合戦出場を果たしたムード歌謡グループ純烈、南海キャンディーズの山里亮太、安田大サーカス・クロちゃんにTBS『水曜日のダウンタウン』を演出する藤井健太郎。開会宣言を担当した宇多丸(ライムスター)は映画評論家・荻昌弘の名解説を引用し、『マッスル』の世界を『ロッキー』になぞらえた。
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「これは人生、するかしないかの分かれ道でするほうを選んだ勇気ある人々の物語です」
全員、『マッスル』と坂井(ササダンゴ)にゆかりのある面々だった。ササダンゴは『水ダウ』と宇多丸のラジオ番組『アフター6ジャンクション』に出演しており、クロちゃんとは同じ事務所。山里と坂井、ディーノは親友である。純烈のリーダー、酒井一圭は、かつて『マッスル』でレスラーとして活躍していた。
両国だから世間的に名のあるゲストを呼んだのではなく、今の坂井の活動が“両国レベルの規模”になっていたのだと言える。
衝撃のネットニュースマッチ。
藤井健太郎企画による試合として行われたのは、ディーノ&山里vs.ササダンゴ&クロちゃん。試合内容がネットニュースでフライング配信されてしまい、「フェイクニュースにしないため」に見出しに従って闘うというものだ。
その結果、試合は敗者チームのキャプテンが肛門を爆破されるルールに変わり、クロちゃんの自宅でDDTのレスラーが試合をしてテレビが破壊され、山里はアイドル(スーパー銭湯アイドル・純烈の酒井)とのキス写真が“流出”した。
強烈な見出しの記事は本当にメディアを通じて配信。最終的にヤフートピックスに掲載されたのだから威力抜群だった。ただこの「ネットニュースマッチ」は、単に山里とクロちゃんをイジって笑うためのものではなかった。
ここで本当に“ネタ”にされていたのは、パブリシティ媒体としてネットニュースが重視され、“ヤフトピ砲”なる言葉も存在する状況自体だろう。
ヤフーニュースに載ればそれでいいのか、強いワードを見出しに使ってページビューを稼げばそれでいいのか。その記事だけ、もしくは見出しだけでイベントの断片を知らせたところで、本当に魅力が伝わったと言えるのか。
少なくとも『マッスル』の面白さは、記事のPV数やついたコメントの数とは関係がないはずだ。そしてそういうネタを、本当にネット媒体を巻き込んでやってしまうのが『マッスル』の大胆さなのである。