球体とリズムBACK NUMBER
カタール優勝で地殻変動のアジア。
潤沢な資本を賢く使う国家の脅威。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byTakuya Sugiyama
posted2019/02/05 10:30
アルモエズ・アリらのスーパーゴールが強烈な印象を残す一方で、カタール代表は組織の熟成度も高かった。
決勝の先発7人が卒業生。
エースのアリや3点目を決めたアフィフ、そして中盤でシャビのようにパスをさばいた小兵MFアシム・マディボら、決勝に先発した選手のうち7人がここの卒業生だ。また2014年のU-19アジア選手権でカタールに初めてトロフィーを持ち帰ったチームは、この育成組織で学んだ選手たちだけで構成されていた。
だからあるいは、シャビは心から自信を持って、教え子たちの優勝を予見していたのかもしれない。実際、彼らの高い技術と驚くようなアイデア、泰然とした振る舞いは、2000年代後半から2010年代前半に栄華を誇ったスペインにも通じるところがあった。
そんな選手たちを日頃から間近で見ていたシャビは、このクオリティーはアジアのシニアレベルでも随一のものだと、確信していたのではないだろうか。
政治的な背景を考慮すれば、この偉業はさらに輝きを増す。2017年からカタールは周辺国との国交が断絶されており、そのなかには今大会の開催国UAEも含まれる。つまりカタール人のサポーターはUAEに入れず、代表チームの応援に駆けつけられなかったわけだ。
1人当たりの国民総所得世界一。
平均年齢24.8歳の若いチームは多くの試合で敵意に満ちたブーイングを受けたが、高い個人能力と優れた組織力、不屈の闘志で7試合のすべてに勝利。大会を通じて19得点1失点を記録し、サウジアラビア、イラク、韓国、UAE、そして日本を下したのだから、文句なしの王者だ。
「我々は今日、歴史をつくった」とフェリックス・サンチェス監督は試合後に語った。その通りである。ほかの大陸を見ても、ここまで急激に力をつけ、頂点に立った代表チームはない。
キャピタリズムの世界のモダンフットボールだ。当然、潤沢な資本を持っているところが有利になる。国土は小さくても1人当たりの国民総所得が世界一の国が、首長の号令のもとにそれを賢く使えば、これまでのヒエラルキーが音を立てて崩れることが証明された。