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黒田博樹と北別府学、前田健太が
語った「カープのエース」の伝統。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2019/01/16 16:30
黒田博樹(左)と北別府学。球団にとってのレジェンドが、カープのエース論について語り尽くしてくれた。
自分の中での歯がゆさが。
一方、黒田が広島で初めて優勝を味わったのはメジャーでの7年間を経て、再びカープのユニフォームに袖を通してからだったが、あの熱狂の2年間を振り返ると黒田には少し心残りがある。
「僕がもっと元気なら、何かもっとできたという気持ちはありました。僕が教えてもらったカープのエースというのはこうだということを表現したかった。でも40歳、41歳のシーズンでそれができるかというとできなくて、自分の中での歯がゆさを感じていた。体力がある34、35歳ならもうちょっと違ったものができたかもしれないけど、自分が考えていることと表現できることがずれているのが苦しかったですね」
復帰した2015年から2年間で黒田の完投は合わせて2試合。その2年間のチーム全体の完投数は、合わせて16試合に減ってしまっていた。
北別府がマエケンに言ったこと。
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「いまは環境が違う。チームも打たれる前に代えておこうという感じで、それでは投げている方も弱くなる。とにかく100球にこだわって、8回でも降板してしまう。以前に前田(健太、現ロサンゼルス・ドジャース)に『せめて完投してくれ』と頼んだことがありましたよ。僕は環境の甘さが選手を弱くしていると思いますよ」
北別府からはこんな苦言も飛び出したが、さて当の前田健太はどう考えているのか。
「そこをよく言われるんですけどね。黒田さんや北別府さんと僕がちょっと違うのは、僕は登板間隔が中5日だったんです」
前田の説明に耳を傾けよう。
「僕の年間の投球イニングをみてもらったら分かるのですが、210回とか投げているシーズンがあります。確かに黒田さんに比べれば、完投は少ない。完投できる場面も一杯あった。でも、チーム状況で先発がいなくて野村(謙二郎)監督や緒方(孝市)監督、投手コーチと話し合って中5日で投げていた。それも完投が少ない理由だと思います。
まあ、時代にもよると思うんです。僕のときは先発の頭数がいなくて、6人揃えられないから、僕はなるべく短い間隔で、と言われて中5日だった。試合中の点差、球数によって『きょうは点差が開いたから、ここで降板して次の登板間隔を短くしていってくれ』というのがあったんです」