大相撲PRESSBACK NUMBER
引退した里山の忘れられない一言。
「本当は前に出る相撲を取りたい」
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2018/11/28 07:00
里山が入門から2年で十両に昇進した頃の1枚。その後の苦しい時期を乗り越え、今秋現役を引退した。
力士の葛藤を理解できる親方として。
あれは、死闘だった。
この言葉しか思い浮かぶ言葉はない。
だが、この時の里山の相撲は普段とは異なっていた。突き押しといなしのコンビネーションで起こして崩す吐合に対して、里山は真正面から撃ち合ったのである。そしてそれは、里山が本当は取りたいと話していたスタイルだった。
1分半を超える熱戦は、里山に軍配が上がった。
その一番で敗れた吐合は、その後十両に昇進することなく2015年に引退した。そして里山はその後、36歳になるまで関取の座を守った。ボロボロになるまで潜り続け、大銀杏を乱しながら戦い続けた。一生をかけた者同士の一番は、こうも明暗が別れてしまうのか。
里山は引退会見でこう語った。
「最後まで自分の相撲のスタイルを貫けたと思う。」
吐合との一戦を見たからこそ、そして、何よりも本当は阿武咲のようになりたいという想いを抱きながら葛藤してきた力士だからこそ、この言葉の重みを私は多くの方に知ってほしい。
そして、指導者になった里山がどのような力士を育てるのか。取りたい相撲と勝てる相撲の間で葛藤する力士の苦悩も、観客の目線も、全て理解できる親方が何を弟子たちに伝えていくのか。それが楽しみでならない。