プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ルーニーが母国代表に最後の別れ。
ウェンブリーは希望で満たされた。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto press
posted2018/11/20 07:00
現エースのケインと笑顔で会話するルーニー。イングランド代表の世代交代を象徴する。
反対の声もあったけど。
しかし、反対の声も出た。
いや、歓迎ムードより強かったと言ってもよい。1試合とはいえ代表引退から1年以上、最後の代表戦は2年前に遡る33歳が復帰することで、代表キャップの価値が薄れるというのが理由だった。
結果的に、FA(サッカー協会)が前日までラジオ広告などでチケット販売に励んでいた親善試合に、付加価値をつけた。ルーニーが後半早々の58分にベンチを出ると、「エキシビション」的と理解する者もいるが、予想よりも早い時間帯での投入は、対戦相手の実力不足から来たものだ。
選手を代表に差し出す側のクラブは、シーズン中の「無意味」な親善試合を嫌う。
UEFAが、新たにネーションズリーグという形態で代表戦を行なうようになった背景にも、従来の「フレンドリー」に対する否定的な見方があった。アメリカ戦は、ネーションズリーグのクロアチア戦の3日前だった。
すでにチケットが完売していたクロアチアとのホームゲームは、勝てばグループ首位が決まり、勝てなければグループ3位でのリーグB降格もあり得る大一番という位置づけ。そんなクロアチア戦を前に、歯応えに欠ける相手との親善試合の意義は乏しかった。
ルーニー基金と関連づけられ。
前半2-0のスコア以上の差が感じられたアメリカ戦、ベンチにルーニーがいなければ、6万8000人強の観衆の多くは、終了の笛を待ちわびて後半の45分間を過ごしていただろう。
かといって、ルーニーの「送別」がこれ見よがしに行なわれたわけでもない。この一戦は『ウェイン・ルーニー・ファウンデーション国際親善試合』と銘打たれ、児童福祉を主目的に本人が設立した基金と関連づけられていた。
ただ当日、ルーニーのTシャツを着たボランティアが募金箱を手にスタジアム周辺にあふれてはいなかった。ピッチ外周の広告ボードや観戦プログラムで、携帯やオンラインでの寄付が呼びかけられる程度だった。
プログラムの表紙には代表ユニホーム姿のルーニーがいたし、表紙の写真と同様10番を背負って登場した。キャプテンマークも腕に巻いた。しかし、いずれも本人の要求ではない。チームメイトたちが自発的に敬意を示した結果だと、試合前の会見でサウスゲイトが説明している。