プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ルーニーが母国代表に最後の別れ。
ウェンブリーは希望で満たされた。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto press
posted2018/11/20 07:00
現エースのケインと笑顔で会話するルーニー。イングランド代表の世代交代を象徴する。
功労者の表敬が得意ではない。
イングランドはサッカーの母国を自負する一方で、歴史的に功労者への表敬が得意とは言い難い。
栄光の'66年W杯優勝チームの選手たちですら、その大半が引退後に優勝メダルを換金をせざるを得ない余生を過ごしている。主将として優勝トロフィーを掲げたボビー・ムーアが、他界する2年前にウェンブリー内のバーで門前払いにあった事実も、最近になって公の知るところとなっている。
21世紀のキャプテンの1人であるルーニーは、アメリカ戦前、チームメイトたちが整列して迎える中、4人の息子を連れてウェンブリーに入場した。右腕で抱いていた四男にとっては、父親の代表ユニホーム姿に触れる初の機会だった。
“ウェイン・パパ”の胸にこみ上げていたであろう誇りと喜びを想像すれば、当日の代表復帰に異論を唱えていた人々も考えを変える気になったのではないだろうか?
FAが往年の功労者たちに対する冷遇を反省し、遅ればせながらの表敬と支援を具体的に始める転機となり得る点においても、意義はあったと考えられる。
ルーニーらしいプレーが随所に。
アメリカ戦でキャップ数を120に伸ばしたルーニーだが、さすがにゴールを決める喜びまでは味わえなかった。後半ロスタイム、2人のDFをフェイントで揺さぶって放った枠内シュートは、GKブラッド・グザンにキャッチされた。
とはいえ「できすぎ」の展開にはならず、国内メディアのマッチレポートもルーニーの割合が必要以上に多くならなかったことで、むしろ「サヨナラゲーム」の好感度が増した感があったように思える。当人も、セーブにあった後も笑顔を浮かべていた。
最後に今一度、ルーニーらしさを拝むことの出来る場面もあった。
例えば、ボックス内で受けたスローインを的確にコントロールしてキープし、右足アウトサイドでパスした65分のプレー。秀逸の精度で届けた74分のロングパス。ルーニーは、イングランド伝統の豪快さと、国産には珍しい繊細な巧さを併せ持っていた。
だからこそ、代表でも群を抜いていた。筆者はそう思っている。最後のゴールに沸くことはなくとも、衰えない持ち味を目撃して微笑んだイングランド・ファンは、記者席にいた自分だけではなかったはずだ。