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松中信彦が語る柳田悠岐への畏敬。
「自分とは違うタイプの4番」とは。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/11/12 14:00
平成唯一の三冠王・松中の目に、今のホークスを背負う柳田の打撃はどのように映ったのか。
短期決戦の難しさを知るから。
ご存知の方も多いかもしれないが、松中さんはポストシーズンに苦しんだ選手だった。主砲として期待された2000年の日本シリーズでは、全6戦で1安打に終わり、チームも敗れた。
2004年には三冠王として、初めて導入されたプレーオフに臨んだが、19打数2安打の不振で、またもホークスは敗れた。
4番ではなかった2011年にはクライマックスシリーズで代打満塁ホームランを放ち、日本一への起爆剤となったが、やはり、短期決戦には苦い思いがあるだろう。
そんな松中さんが、初戦から、この第5戦まで14打数4安打ながら、本塁打ゼロに抑えられていた柳田をどう見ているのか。気になったポイントだったが、松中さんは自分とは全く違うタイプの4番打者なのだと指摘した。
「僕は、4番打者というのはやはり責任があるし、打てば勝つ、打てなければ負ける。そういうものだと思っていました。ただ、柳田は良い意味で、あまりそういう重圧を自分にかけていないように見えます。打っても、打てなくても、淡々と気持ちを切り替えて、次の打席に向かっていく。それはシーズン中からずっとそうだったと思います」
タイミングさえ合えば振る。
また、打撃スタイルでも2人は異なるという。
「これも僕の考えですが、4番打者というのはボール球を振らないものだと考えていました。それはどれだけ調子が良くて、打ちたくても、ボール球を振ってしまえば、スイングの形が崩れてしまうからです。でも柳田はスイングの形にあまり固執しない。技術よりもスイングスピードで飛ばすタイプなので、形のズレが気にならないと思うんです。だからタイミングさえ合えば、どんどん振っていく。それが、良い方に出ましたね」
カープはシリーズを通じて、柳田に内角のボール球を振らせようとしていた。序盤はその術中にはまっていたが、それでも柳田はフルスイングをやめなかった。そして、最終的に最も大事なゲームで、サヨナラホームランを放ってしまったのだ。
松中さんの言葉を借りれば、従来の4番打者はボール球を振らされれば、それを修正しようと意識して、迷いが生じるが、柳田はほとんど意に介していなかったように見えたという。