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福原愛が日本卓球を変えた2つのこと。
早期教育と、中国語を覚える大切さ。 

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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posted2018/11/01 17:00

福原愛が日本卓球を変えた2つのこと。早期教育と、中国語を覚える大切さ。<Number Web> photograph by AFLO

引退会見に目をうるませて登場した福原愛だが、最後は最高の笑顔を見せてくれた。

中国語は卓球についての言葉が多い。

 私はNumber795号(2012年1月)で、福原にそのテーマについてインタビューをしたが、この時のやりとりはいまでもよく覚えている。彼女は、このように説明してくれた。

「中国語は、卓球についての言葉が豊富なんです。たとえば、スマッシュについていえば、日本では『強い』、『弱い』それに『普通』の3種類くらいしかないと思いますが、中国では私の感覚として、30から10段階刻みで、120くらいまで表現する言葉がある感じなんです」

 それを聞いて、俄然興味が湧いた。ちなみにと前置きして、120パーセントのスマッシュは、中国語でどう書くのか尋ねてみた。

「発死力、と書きます」

 相手を殺すつもりで、スマッシュを叩き込むわけか……。

 続いて福原は、こうも教えてくれた。

「バックハンドのスマッシュは、『抜刀』と書くんです。イメージ、すごく伝わりますよね」

 福原から中国の卓球用語を聞いてわかったのは、卓球は中国において「決闘」の要素が強いということだった。

 もともと、中国語では卓球のことをこう表記する(中国語では細部が異なる)。

 兵兵。

 兵隊が向き合っているイメージなのだ。

ロンドン五輪でも同時通訳をしていた。

 中国の育成システムは町から市、省、そして国家チームと激烈な競争の中で勝ちあがってきた選手によって支えられているが、おそらく世界でいちばん卓球用語が発達していることも大きく影響しているはずだ。

 福原は、同世代の劉詩ブンと中国語でメールを交わすなど、中国語に堪能になり、自在に操った。

 ロンドン・オリンピックのメダル獲得会見の席上でも、中国の選手が話している間、彼女が監督に“同時通訳”していた姿が思い出される。

 身体能力、技術だけでなく、言葉の重要性を福原は示したのである。

【次ページ】 まだ若い、しかし大ベテランでもある。

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