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バスケの写真を撮るなら縦or横?
カメラマンが語る縦位置の存在感。
text by
吉川哲彦Akihiko Yoshikawa
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2018/10/25 17:00
左:大井氏が撮影したNumber519号(2001年)のアレン・アイバーソン。右:今回のBリーグ公式ガイドブックのニック・ファジーカス。
ジョーダンの伝説的な1枚のような写真を。
――バスケットのゲームで、この瞬間を撮りたいというのはありますか?
大井 決定的なシーンを撮ったことがないんですよ。サッカーでいえば決勝ゴールの瞬間とか。1998年のNBAファイナルで、マイケル・ジョーダンの「The Last Shot(ザ・ラスト・ショット)」と呼ばれている伝説のプレーを撮った名作があるんですが、あんな写真を一生に一度でいいから撮ってみたいですね。
ラストシュートを打つジョーダンを後ろ側から引きで捉えた1枚で、画的にも素晴らしいし、歴史的な意味合いにおいても本当に貴重な写真です。
たぶんその場にいたほとんどのフォトグラファーは、この時ジョーダン1人に焦点を絞って、寄り気味で狙っていたと思います。そのなかで、この人はおそらくはじめから横位置で、思いっきり引いて観客の表情込みで狙っていたのでしょう。そういう独創的な発想力があって、かつその瞬間に確実に撮れる人がプロ中のプロだと思います。検索すればすぐに出てきますから、ぜひ見てみてください。
――他に何かバスケットで好きな写真は?
大井 これも有名なのですが、1993年、当時ニックスにいたジョン・スタークスが決めた「The Dunk(ザ・ダンク)」のプレー写真ですね。スタークスが好きだった、というのもあるんですけど、ジョーダンとホーレス・グラント越しに左手1本でぶち込んだ、それは凄まじいダンクでした。
その瞬間を完璧に切り取った劇的な写真で、構図や光の感じもむちゃくちゃ格好良く、いろんな意味で惚れ惚れする写真です。これも検索すればすぐに見つかります。
これについてはひとつ裏話があって。僕がこの写真を初めて見たのは、多分、マディソンスクエアガーデンに貼ってあったポスターかトレーディングカードだったはず。だから縦位置の写真だと思い込んでいたんです。でも、以前何かの機会にネットで調べてみたところ、それよりももう少し引いた正方形のサイズのものがいくつか出てきました。
オリジナルは6×6(中判サイズの正方形フォーマット)で撮られていて、それを縦位置にトリミングしたものを見ていたのかもしれません。でも、個人的にはトリミングした縦位置の構図のほうが、圧倒的に格好良く見えます(笑)。
――横位置と縦位置で1点ずつ傑作を選ぶとしたら、横位置はジョーダンの「The Last Shot」、縦位置はトリミングしてるかもしれないけど、スタークスの「The Dunk」ということですね。
大井 今パッと思いつくのは、その2枚かなあ。ジョーダンの「The Last Shot」は後ろのお客さんも入っているから、ああいう記念碑的な写真になっていると思います。これはもう完全に狙っていないと撮れないです。あの緊迫した世紀の瞬間に、引きの画を撮るんですからね。結果として二次使用料なんかで相当なお金も入ったと思いますし(笑)、まさにプロの仕事です。
――バスケットのプレー写真は一般的には縦位置のほうが撮りやすいし、良い写真になることが多い。でも縦位置の写真も横位置の写真も、撮るフォトグラファーのアイデアと腕で、それぞれに良い作品になるということですね。
大井 そうですね。そういう意味では雑誌のような紙媒体は、見開きいっぱいに横位置の写真を大きく使ったりもできますし、縦1ページを縦位置の写真で裁ち落とすこともできる。縦横、どちらの写真の良さも活かせる媒体だなとあらためて思います。
見開きで写真を使う雑誌ならではの贅沢さは、文化として貴重だと思いますね。一方でウェブはまだまだ過渡期という気がしますから、いずれは縦位置の写真をうまく使う方法が出てくるかもしれない。それまで縦位置写真の文化を、雑誌編集者とフォトグラファー全員で何とか守らないといけません(笑)。