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“ルートセッター”松島暁人が目指す、
「登れるけど登れない壁」ってなんだ?
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byMiki Fukano
posted2018/10/24 11:00
チーフからの嬉しい一言とは。
今年の6月W杯ボルダリング八王子では現役時代から縁のあるチーフ・ルートセッターのマニュエル・ハスラー(スイス)からの嬉しい一言もあった。
「マニュは各ルートセッターを信頼する進め方で、ボクのつくった課題は試登もせずに認めてくれたのがうれしかったですね。他の人なら違ったかもしれないですが、ボクがW杯ボルダリングで表彰台に立った2007年のスイス・グリンデルワルト大会で、チーフ・ルートセッターをしていたのがマニュだったんですよ。それもあって余計にでしたね」
いい課題を考えるのが永遠のテーマ。
W杯ボルダリングでは2、3年前はランジ課題やコーディネーション課題が主流だったが、昨年あたりからマントルを返す課題など、クライミングの基本的な動きを求める課題が再び増えている。オリンピック種目に決まり、競技化が顕著なスポーツクライミングで、コンペティターとルートセッターの知恵比べは、今後どうなっていくと松島さんはみているのだろうか。
「ボクが現役のころはボリューム(ひとりでは抱えきれないほどの巨大ホールド)を使った課題などはなかったし、時代とともに変化してきましたが、課題内容のバリエーションは出尽くしたかなと感じています。ルートセッターの立場で言っても、コーディネーション課題や、ランジ課題ばかりをつくっていると飽きるんですよ。だから、これからはクライミングの基本的な動きを発展させた課題が主流になっていくんじゃないかな。でも……」
そこまで話すと松島さんは少し考えて、次の言葉を切り出した。
「いい課題って、どういうものなんでしょうね。順位がバラけたらいい課題なのか。完登者が出なかったら本当にダメな課題なのか。観客が楽しんで盛り上がればいい課題だったのか。
たとえば、今年のW杯ボルダリングの八王子大会で男子決勝は最終第4課題まで優勝争いがもつれて観客はすごく盛り上がりました。だけど、もしあの最終課題が1課題目に出ていて、別の課題が最終課題だったら、大会はあれほど盛り上がらなかったかもしれない。そうなると、優勝の決まった課題はいい課題ではなくなってしまうのか。
競技ルートセッターの仕事って、その答えが見つからないからおもしろいんですね。それを毎回考えるのが醍醐味だし、永遠のテーマなんですよね」