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横浜FMウーゴはGK泣かせのFW。
ゴール後、左腕にキスをする理由。
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJ.LEAGUE
posted2018/10/10 07:30
体格は日本人とそこまで変わらないウーゴ・ヴィエイラ。しかしコンスタントに得点を奪えるのは、キャリアで培ったメンタリティがあってこそだ。
チャンスに落ち着いていられる。
たしかに、考えてみればその通りだ。
ワンタッチシュートというのは、飛んできたボールの軌道や速さが不意に変わるということ。一度ボールを止めて蹴ったシュートよりも、キーパーとしてはタイミングを合わせにくい。
ウーゴは、キーパー泣かせのいやなヤツなのだ。
この見立てを張本人にぶつけたところ、ウーゴはうれしそうにしゃべり出した。
「俺のいちばんの強みは、ゴール前で冷静でいられるところかな。ゴールはサッカーでもっとも美しい瞬間。だから、チャンスを迎えて慌ててしまう選手は少なくない。でも冷静な俺は、チャンスに落ち着いていられるんだ。
俺はあらかじめ、どこにボールが飛んできて、どれくらいの時間がもらえるかがわかる。加えて右足でも左足でもシュートできて、ヘディングだって苦手じゃない。だから相手をしっかり見て、落ちついてプレーすることができるんだよ」
ゴール前では落ち着くことが大事。だれにでもわかることだが、実際にやるのは難しい。かくいうウーゴも、ゴールを決めることが簡単だとは思っていない。
「ストライカーはゴールを決めなきゃいけないポジション。でも、それは難しい。ポルトガルにいたころも、屈強なディフェンダーに削られ続けた。でも削られてイライラするのは、いいことなんだ。イライラするほど、俺は力を出せるからね」
削られるほど、燃える。それがウーゴという男。生まれつき、逆境が好きなのだ。
ウーゴのせいで負けたと言ってくれ。
ストライカーは、つねに数字が求められる厳しい役目。無得点でチームが負けると、真っ先に槍玉に上げられる。だが、この決めて褒められ、外して叩かれる宿命を、なによりも愛している。
「この落差の大きさがいいんだよ。ストライカーというのは、いうなれば崖っぷちを歩くようなもの。このスリルに生きる感覚が、なんともいえずいいんだよ。
だから俺は、サポーターのみんなに伝えたい。俺が決められずにチームが負けたら、遠慮なく“ウーゴのせいで負けた”と言ってほしい。そうしたら俺は奮起するよ。落ちたら死んでしまう崖っぷちに生きることで、俺は自分の力を最大限出し切ることができるんだから」
ウーゴは生まれながらのストライカーだった。
好んで崖っぷちを歩く度胸の持ち主だから、チャンスになっても慌てないのだ。