草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
コンプライアンスとは何か。
中日は昭和の遺風から脱却できていない。
posted2018/09/14 13:20
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph by
Kyodo News
中日ドラゴンズは昭和の遺風漂う球団である。9月4日のヤクルト戦(神宮)では激しいヤジに朝倉健太投手コーチが応戦した。その試合はあろうことか9回だけで5人の投手をつぎ込みながら6点リードを追いつかれたあげく、延長戦でサヨナラ3ランを浴びるという悲惨きわまりない負け方だった。
台風21号が列島を横断した日に、球場までやってきたファン。安心して勝利を待っていたら、跡形も無く消えていった。コーチもファンも耐えがたい敗戦だっただろうが、それなら金を払った側の怒りに分があるというものだ。
この敗戦を受け、翌日の試合前にはミーティングが開かれた。遠巻きにそのようすを見ていた中日の番記者たちは、内容を知ろうと森繁和監督に尋ねたところ「大きなお世話だ」という答えが返ってきたという。
その夜も逆転で落とし、迎えた6日は打線の奮起で9-3で打ち勝った。ただ、累積した借金の数と最下位低迷が腹に据えかねたのか、ある男性ファンが森監督に声をかけた。足を止めた森監督は耳に手を当て「聞こえない」ポーズ。やおらフェンスに近づいた。
どうやら男性は辞任勧告をしたようだが、森監督は「わかってるよ」と答え、立ち去ったそうだ。字面にすると穏やかな会話だが、周囲から見れば一触即発のど迫力シーンであった。朝倉コーチの罵り合いともども、動画で拡散しているので興味のある方はご確認いただける。
ヤジを受ける覚悟も必要。
なぜこのようなことが起こったかというと、そこには神宮球場の構造が関わっている。熱心な野球ファンならご承知だろうが、監督や選手の動線がファンの目にさらされる本拠地球場は今や神宮だけ。そうした球場が多かった昭和はもっとヤジは激しく、当たればケガをする物も飛んできた。
それに対してときには選手の側も果敢に応戦していたものである。ところが現在はファンも選手も実にお行儀がよくなった。コンプライアンスというやつだ。
もちろんファンには不満をぶつける権利はあるが、限度もある。脅迫や差別性のある言葉やポーズはサッカーの例を見るまでもなく許されることではない。裏返せばそのルールの範囲内なら、選手はヤジを浴びる覚悟は必要だ。少なくとも動画で確認した限り、神宮での一件でのファンのヤジは「セーフ」だったように思われる。