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フルスイング主義は誤解されてる?
常葉大菊川の超攻撃野球の本質。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/08/14 16:00
盗塁を刺し続けた日南学園の捕手・蓑尾海斗。それでも、盗塁に挑戦し続けた常葉大菊川の選手たち。
貴重な得点チャンスでもフルスイング!
1死から打席に立った奈良間はフルスイングで左中間に強い打球をはじき返すると、外野の守備位置を確認して1塁ベースを蹴って二塁を陥れた。積極果敢な好走塁だった。
「外野の守備が深かった。自分がツーベースにすれば、勢いに乗ると思った」と奈良間は振り返る。続く2番の東虎之介が右翼前安打で続き、1死・一、三塁と好機をつくった。
そして、ここからの常葉大菊川の攻め方がまた面白い。
1死一、三塁のケースは大きな得点チャンスだ。犠牲フライを打てば1点が入るし、たとえ、内野ゴロを打っても、併殺崩れになれば1点が入る。走塁が上手く行けば生還もできる。
こういう場合、多くのチームがやるのが右打ちだ。
併殺崩れを狙い1点を取る。内野の間を抜ければなおいいが、そうでなくても確実に得点を挙げられるからだ。
しかし、常葉大菊川は違った。
こんな重要な場面で単独スチール!?
この場面で常葉大菊川は、カウント2-2からの8球目で一塁走者の東がスタートを切り、盗塁死してしまう。単独スチールである。
結局、2死・三塁と好機が狭まりこそすれ、3番の鈴木琳央が左翼前へ適時打を放って先制点をものにしている。
高橋監督はこのケースの意図を説明する。
「このケースでは転がせば1点は入るかもしれませんが、そうは考えません。意識としては『強い打球を打て』なんです。
最初からゴロ狙いだと、打てても弱いゴロになりますけど、フルスイングなら強いゴロになり野手がはじくかもしれない。
盗塁こそ失敗しましたけれど、それもOKなんです。相手のキャッチャーが良かっただけですから、紙一重のプレーです。上手く行けば、向こうがミスをしていたかもしれません。
打者には初球から強く振ることを言っていたので、一時的にチャンスが潰えても、3番の鈴木は思い切ってバットを振れたんだと思います」
打者心理はどうだったのか。
鈴木はいう。
「右打ちをするように言われたことは一度もないですね。1球目からフルスイングでした。それはチームの決め事なので。
(盗塁を失敗して)走者がいなくなりましたけど、ここでアウトになったら流れが変わってしまうので、自分が打ってやろうと思いました」