マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球の私立弱体化と、ある見解。
「殴られて育った兵士的な強さが」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/07/30 07:00
昨夏の甲子園を経験した松商学園と直江大輔が県大会で敗れる。波乱が多いと言われる今大会の象徴かもしれない。
強豪の弱体化を指導者に訊くと。
また、公立だ……。
この夏ほど、いわゆる強豪が公立高校に敗れる波乱が数多く起こる年が、今まであったろうか。
九州では早々に、延岡学園が、九州国際大付が公立校に敗れた。さらに、センバツ8強の日本航空石川、4強の三重が、東北、日本文理までが公立校に敗れた。
公立校だって、理にかなった練習を積んで、きちんとした野球をするチームはいくつもある。しかし、全国的な現象として、これだけ公立校の台頭が明確になってくると、何か理由があるのか……と訊かれることも多くなってきた。
私にもわからないから、こちらから現場の指導者の方たちに訊いてみた。
面白い“見解”を明かしてくれた方がいた。その発言をそのまま文章にすると、こうなる。
「殴られて育った強さがなくなったからじゃないですか?」
「みんな同じ、ツルッとした顔」
私が言ったわけじゃない。
「私立の強豪校の強さって学校によっては、殴られながら、罵倒されながら、おそろしいほどの量の練習を強制されながら、そういうものをすべて乗り越えてきた“兵士”のような強さっていうんですか」
これも、決して私が言っているわけじゃない。
「だから、もう面構えから違う。最初の整列で向き合った時、あ、こいつらには勝てるわけないって、威圧感だけでもう負けてましたよ。この相手には勝っちゃいけないんだ……って、なんだか憧れみたいな気持ちにさせるようなチームだって、ありましたもん。
でも、今は、私立の強豪も公立も、みんな同じ顔してますよ、ツルッとした。時代の善悪観が変わってきて、“厳しさ”にいろんな制約ができてきた。私立の強豪から厳しさを引いたら、公立校とおんなじじゃないか……って。
勝って当たり前みたいなプレッシャーがかかるぶん、強豪校が不利になって、たいして違わないぞ! って、思いきりよく捨て身でいける公立校が100%の実力が出せるとしたら、ねぇ?」