マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校野球の私立弱体化と、ある見解。
「殴られて育った兵士的な強さが」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/07/30 07:00
昨夏の甲子園を経験した松商学園と直江大輔が県大会で敗れる。波乱が多いと言われる今大会の象徴かもしれない。
本気になったピッチングの凄み。
私の中で、松商学園・直江大輔は今年の高校No.1投手である。
マウンド上に立つユニフォーム姿の雰囲気、全身をしなやかに連動させた投球フォーム、速球にスライダー、フォーク……持ち球すべてを低めに集められるコントロールに、打者と状況を見つめながら投げられるピッチングセンス。無駄に力まない、無駄に気負わない、いつもフラットなマウンドさばき。
直江大輔は、ピッチングという仕事のできる、まさに「ピッチャー」だった。
ただ1つ、まだ見せてもらっていなかったのが“怒り”。怒ったとき、つまり直江大輔が本気になったとき、どんな投手に豹変するのか。それを、今日、高校野球生活最後のピッチングとなった試合で見せてくれた。
このやろー!!
そんな叫びが聞こえてくるような猛烈な腕の叩きから、今年見た4試合ではなかなか見せてもらえなかった140キロ台が立て続けに決まり、8回には145キロにまで達した。
そのぶん、変化球とのメリハリも効いて、直江大輔が投げ始めてから、岡谷南打線が鳴りをひそめる。
甲子園でその闘う牙を見たかった。
やれるじゃないか……。
これが見たかったんだ。
どんな時にも涼しい顔のポーカーフェイスも投手には必要だが、そこはまだこれから伸びていかねばならない高校生だ。
何もかもかなぐり捨てて、なりふり構わず闘争に身を投じる。そんな“狂気”も、内に秘めていてほしい。
直江大輔の“キバ”を、初めて見ることができた。しかし、できれば、甲子園のマウンドでその闘う牙を見せてほしかった。