プレミアリーグの時間BACK NUMBER
イングランド躍進の陰にリンガード。
「今時の若造」が一転「賢者」へ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2018/07/21 07:00
マンチェスター・ユナイテッドで長年揉まれたリンガード。若きイングランドを象徴する1人だった。
乾らに並ぶくらいの鮮烈な印象。
破天荒な言動も、物怖じせずにマイペースを貫く「良い意味での場違い」と思えるようになった。イングランドが大量6得点を奪ったパナマ戦後の冷めた表情などは、逆に微笑ましくもあった。
母国内では、2連勝でのグループステージ突破決定に一気に沸き始めていた。見事なミドルでチーム3点目を決めたリンガードを、ジェシーならぬ「メッシ・リンガード」と呼ぶ大衆紙もあったほどだ。しかし当人は、BBCのインタビュアーから「それほど嬉しそうには見えないね」と突っ込まれたほど冷静。火がついた国民の期待に関しても「いいんじゃない?」と、淡々と答えていた。
W杯のリンガードは試合を追うごとに、「けしからん」という先入観が薄れた。そしてプレーの質の高さも、見直すどころか目を見張るものがあった。ロシアでのチーム内ベストゴールと言える先のシュートも、ドリブル、パス、スタミナありのプレースタイル。日本代表の乾貴士が名を連ねた、FIFA(国際サッカー連盟)選定の「サプライズ・スター」に追加してもらいたいぐらいだ。
トップチーム昇格6シーズン目の昨季は、先発20試合を含むリーグ戦33試合に出場。ウインガーではなくトップ下での起用が増えて8ゴール5アシストの自己ベストを記録した。その調子を考えれば、W杯選出と活躍ぶりは「サプライズ」ではないという意見もある。しかしマンUファンでさえ、W杯でリンガードへの評価を改めた者は少なくないだろう。
お調子者と思いきや賢者だった。
当初はW杯でのスタメン定着など予想されてはいなかった。
デル・アリに挑戦できる「かもしれない」という程度の扱いで、アレックス・オクスレイド・チェンバレンが負傷で招集外となったことも招集のポイントとなった。筆者もリンガードについてハードワークの効く、そこそこのクオリティの持ち主にすぎないと思っていた節がある。
しかしW杯でリンガードのパフォーマンスをじっくり観察すると「インテリジェンス」を持ち味とするアタッカーだと気付かされた。軽いお調子者だと思っていた若者は、実はチームにとって重要度の高いピッチ上の「賢者」だった。