プレミアリーグの時間BACK NUMBER
イングランド躍進の陰にリンガード。
「今時の若造」が一転「賢者」へ。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2018/07/21 07:00
マンチェスター・ユナイテッドで長年揉まれたリンガード。若きイングランドを象徴する1人だった。
ボールをもらえなくても足を止めない。
好例は、準々決勝スウェーデン戦(2-0)だろう。イングランドにとって今大会ベストともいえる内容で難敵を下せたのには、リンガードの貢献があった。結果や数字でもアリへの追加点アシストや、チーム内最多のシュート数やドリブル回数を残したが、知的な動きも見逃せなかった。
欲しいタイミングで足元にパスが来なくても、足を止めずに相手DFを引きつけ、味方にパスを交わすスペースを提供する。最も重要なアタッキングサードで攻撃に勢いと威力を加え続けていた。
改めてハイライト映像を確認してみると、昨季マンUの試合でも、遅ればせながら感心させられるパフォーマンスを見せていた。
今年3月のスウォンジー戦(2-0)である。
あとは決定力さえつけば……。
この一戦で記憶に残っていたのは、ロメル・ルカクのプレミア通算100得点目と、1月に移籍したアレクシス・サンチェスの1ゴール1アシストだった。
しかし両者の得点シーンではリンガードのプレーが効いていた。ルカクが決めた先制点は、リンガードが送ったスルーパスにサンチェスが反応し、アシストしている。そしてサンチェスの追加点は、ドリブルからシュートではなくパスを選んだリンガードの判断が演出したものだった。
それ以外でも、繊細なワンタッチパスでルカクの決定機を演出。同じ2列目のサンチェスやフアン・マタ以上に、リンガードの速い頭の回転がチームを助けたのだ。
ただリンガードはこの試合で自ら3点目を決める一方、ルカクのパスを受けた大チャンスでシュートを大きく外した。簡単なチャンスを逃してしまう決定力の問題は今後の課題でもある。
W杯でも準決勝クロアチア戦(1-2)で悔やまれるシーンがあった。優勢だった前半36分、リンガードはシュートミスし、蹴り損なって枠外へと転がったのだ。
イングランドの敗退が決まった瞬間、リンガードはピッチに腰を降ろした。28年ぶりにW杯準決勝まで勝ち上がったチームを讃えるファンの様子を、いつになく神妙な面持ちで眺めていたのだ。その心中には、「決めていれば」という悔しさがあっただろう。