One story of the fieldBACK NUMBER
W杯と日本代表と本田圭佑を観てたら
阪神タイガースが頭に浮かんだ。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKyodo News
posted2018/07/12 17:00
6月3日にロサリオと入れ替わりで一軍昇格し、同日の西武戦で2ランを放った陽川尚将。7月11日現在で、打率3割3分7厘、3本塁打、23打点。
ひるがえって、阪神タイガースである。
ひるがえって、阪神タイガースである。極北ロシアのピッチから、いきなり甲子園の芝の上へと移るのは突飛かもしれないが、実は大阪の入気球団にも、長らく同じ命題が横たわっているのだ。
近年、球団フロントからはこんな言葉が聞こえていた。
「福留はすごいよ。頼りになる。でも、いつまでも頼っていたらあかんやろ。ああいうベテランから奪うぐらいの選手が出てこんとなあ……。だから、うちは育成が下手だって言われてしまうんや」
タイガースの若手は一軍の舞台へとやってきても、すぐにまた二軍へ逆戻りしてしまう。自然、実績のあるFA選手やベテランばかりに頼ることになる。それが世間の見方だった。そういう新陳代謝のなさを打破すべく、3年前、金本知憲監督に就任を要請した。
顔ぶれはかなり変わった。代謝は促され、血の入れ替えは大幅に行われたと言っていいだろう。ただ、それでも相変わらず、勝敗を背負う選手というのは変わらない。ここに長らくタイガースが抱えるジレンマがあるようだ。
レアルやバルサより多いと言われる番記者。
「うちは世界一のスポーツマスコミに囲まれている。これは間違いないやろ。それが良い面もあるし、いろいろ難しくしている部分もある」
球団フロントが自虐的に、しかし、どこか誇らしげに言うのは、おそらく真実だ。
常時、40人に迫ろうかという番記者の数は、「レアル・マドリーやバルセロナより多い」と言われている。365日、タイガースを追うメディアの報道が、その何倍もの賛否を呼び、それが球団や選手へと跳ね返ってくる。
良ければ天までのぼらされ、悪ければ地の底にたたきつけられる。そういうジェットコースターのような環境の中を、新たなスターは這い上がっていかなければならない。
3億円助っ人のロサリオがまったく浮上せず、糸井嘉男が離脱している今、4番を打つのは5年目の陽川尚将だ。