One story of the fieldBACK NUMBER
W杯と日本代表と本田圭佑を観てたら
阪神タイガースが頭に浮かんだ。
posted2018/07/12 17:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Kyodo News
名残り惜しい。サッカーのワールドカップ・ロシア大会が終わりに近づいている。
祭りの夜が更けてきて、次第に人波が減り、笛や太鼓の音が小さくなっていく。それに似た寂しさがある。
1日の終わりと始まりを高揚感で満たしてくれた、4年に一度の幸せな1カ月間。そのハイライトとなっていた日本代表の戦いぶりを観ていた時、ある人の言葉が頭に浮かんできた。
「本田圭佑が脇役になるくらいでないと、日本は世界一になれない。そう思いませんか?」
これは本田圭佑の実兄で、本田や家長昭博ら多くのサッカー選手の代理人を務める弘幸氏の言葉だ。
これを聞いたのは、ワールドカップが始まるよりも随分と前のことで、まだメンバーすら決まっておらず、ハリルホジッチ監督が指揮を執っていた頃だった。ただ、それから数カ月が経って、いざ本番と、フタを開けてみると、その言葉がまるで「予言」だったかのような響きをもってよみがえってきた。
上が譲るわけではなく、ガチンコで奪い取る。
兄が指摘した通り、長らく日本のエースとして君臨してきた金髪のスターは、ロシアの地でスターティングメンバーから外れ、脇役となり、その役割を演じきった。
そして、日本は勝った。
ただ、がむしゃらに勝つのではなく、自分たちと相手の状況を冷静に見つめ、勝負の厳しさとも向き合いながら、世界のトップと伍した。それは明らかに今までの勝利とは違っていた。
こんな時代がきたのか。
充足感の中で印象に残ったのは、前述したような日本代表の美しき世代交代だった。
本田圭佑が脇役に――。
弘幸氏の発言の真意は、単なる年齢による世代交代ではない。体力や技術の逆転だけでもない。これまでのエースは、あくまで「俺が日本を優勝させる」と主張し、その座を譲らず、それをガチンコで他の選手が奪い取る。つまり、本田圭佑以外に、本田がかすむくらいに勝敗を背負える選手が出てくれば……という意味だった。
それが現実に起きた。だから、あのチームは美しかったのではないだろうか。