スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
米大学スポーツビジネスを観察する。
想田和弘『ザ・ビッグハウス』論。
posted2018/06/20 07:30
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
日本テレビが、毎年1月2日に箱根駅伝を中継し始めたのは1987年のことだけれど、その前にはアメリカンフットボール、ビッグ10とパック10(現パック12)の王者が対決するローズボウルを中継していた。
ローズボウルは、私にとってフジテレビが中継していたメジャーリーグと同様、「アメリカの窓」だった。
中でも、「M」のマークのミシガン大学のヘルメットがカッコよく、しかもタッチダウンの時に響く応援歌がかなりエキサイティングで、聞くたびに心が躍った。後に、この曲名が“The Victors”と知った。ちなみに、私はこの曲とノートルダム大学の“Victory March”、さらには慶應義塾大学の「若き血」、早稲田大学の「紺碧の空」を合わせ、勝手に「世界四大応援歌」と呼んでいる。
想田和弘作品、『ザ・ビッグハウス』では何度かこの“The Victors”が流れ、私はそのたびに心を躍らせた。
しかし、過去に『選挙』、『演劇』、『牡蠣工場』などの観察映画を手掛けてきた想田和弘監督だけに、“The Victors”の旋律も、単純な興奮には向かわない。
スポーツビジネスにおける仕事図鑑。
今回、監督が扱った「ビッグハウス」とは、ミシガン大学が持っているスタジアムの通称で、収容人数は10万7601人を数える。とんでもない人を飲みこむ巨大なスタジアムだ。
映画『ザ・ビッグハウス』は、ミシガン・スタジアムの試合当日、すなわち「ゲームデイ」を追ったドキュメンタリーである。
この映画はミシガン大学の『ザ・ビッグハウス・プロジェクト ~観察的ドキュメンタリーの歴史と理論と実践』という授業の一環として製作され、想田監督だけがカメラを回すわけではなく、授業を選択した学生もカメラを回していくのだ。
この映画が撮影されたのは2016年の10月。ミシガン大学はホームにウィスコンシン大学とイリノイ大学を迎える。しかし、試合の結果はほとんど触れられていないし、映画は結果にまったく興味を示さない。
たしかに2年前の試合の流れを追ったところで、価値は生まれない。この作品は、スポーツ・ドキュメンタリーとは程遠いところに存在しているのだ。
では、どんな映画なのか? と質問を受けたとしたら、私はこう答える。
「アメリカのスポーツビジネスにおける、“仕事図鑑”です」
と。