スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
米大学スポーツビジネスを観察する。
想田和弘『ザ・ビッグハウス』論。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byAFLO
posted2018/06/20 07:30
10万人以上を収容するアメリカ最大のスタジアム、ミシガンスタジアム。これが大学の所有物なのだからアメリカは桁が違う。
10万人を捌くとは、いかなる巨大産業か。
そしてこの図鑑は、圧巻である。
大きなカンファレンスに所属する学校のカレッジフットボールは、“巨大産業”だと理解していたが、これほどまでの人に支えられていたのかと思うと、唖然、茫然としてしまう。
試合前の運営スタッフのミーティングは規律が保たれ、プロの仕事だということがうかがえる。テレビ中継と連動した運営は、数秒単位での調整を行う世界だ。
救護室の中は数十床のベッドを映し出し、聞けばゲームデイには60人ものスタッフが救護にあたるという。その患者のほとんどが……酔っぱらいだ。
しかし、ミシガン・スタジアムではアルコール類の販売は禁止されている。なのに、この数字なのだ。たしかにフットボールの場合、試合前から出来上がっている人がそれほど珍しくないのだが……。
飲食関係のシーンにも圧倒される。なにせ、10万人の胃袋が待ち構えているのだから。
食事の仕込み、ゲーム中のオペレーション、そして巨大なハンバーガー!
そのゴミはゴミ箱だけでなく、スタジアムのシート近辺に放置されるが、この映画では翌朝の掃除の風景が映し出される。掃除に当たっているのは主に学生のようだが、ひとりの女性がこう呟く。
「フットボールは嫌い」
フットボールの成績が寄付金を呼ぶ。
映画は試合のダイナミズムを描きはしないが、ミシガン・スタジアムを舞台にした職業模様は極めてダイナミックである。
映画の終盤には、ミシガン大学の学長が登場し(これも仕事のひとつだ)、大口寄付者となった卒業生と思われる人たちを前にスピーチをする。
ここで、州立大学であっても、州政府をアテにしない大学の財政力の実情が明らかにされる。
フットボール部の活躍がミシガン・ブランドを高め、そうすれば財政が豊かになっていく構図が浮かび上がってくる。実際に大学によってはフットボールの成績と寄付金との間には相関関係があるという。
だからこそ、フットボール部のヘッドコーチには大金が支払われる。ちなみに、ミシガン大学のジム・ハーボーヘッドコーチの年俸は9億9千万円。
日本でも大学ブランドとスポーツビジネスの連係が叫ばれるようになったが、アメリカとは目的、規模がまったく違う。
ここにも、アメリカのダイナミズムが見え、私は羨望をおぼえる一方で、日本の現実に諦めに近いものを感じた。日本の体育会の監督など、ボランティアがほとんどなのだから……。