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ブラジル人のW杯熱は想像を絶する。
ネイマールが負う途方もない期待。 

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byTakashi Kumazaki

posted2018/06/14 17:00

ブラジル人のW杯熱は想像を絶する。ネイマールが負う途方もない期待。<Number Web> photograph by Takashi Kumazaki

ワールドカップが単なるスポーツのイベントではなく、街と人生に深く根を下ろしていることが伝わってくる。

「セナと一緒にセレソンを応援するからね」

 この壁画に込められたメッセージ、みなさんにもわかると思います。

「ぼくらはセナと一緒に、きみたちセレソンを応援するからね」

 住民に尋ねたわけではありませんが、おそらくこの作品は地元の人々がお金を出し合い、画家に依頼したものでしょう。カナリア色のシャツを着た300人近い老若男女が描かれているので、それぞれが写真を渡して描いてもらったのだと思います。おそらく完成までに1カ月はかかったはずです。

 壁に近づいて住民一人ひとりを観察すると、さまざまなルーツを持つ人々が描かれていることがわかります。

 アフリカ系の黒人はもちろん、アジア系のカップルがいれば、ドイツの小旗を持った夫婦と子ども(1-7の前回大会準決勝はどんな気分だったのだろう)も。家族や夫婦の肖像には、職業や趣味も詳細に描かれています。ギターを弾いていたり、愛犬を抱いていたり、車の修理をしていたり。もちろん、男の子たちの多くはボールを蹴っています。

「こんなふうに描いて」という住民のリクエストに応えて、画家が丁寧に仕事をしたことがわかります。

 女性たちの中には、妊婦さんも何人かいました。無事に生まれていれば、子どもたちはいま3歳くらい。かわいい盛りでロシア大会を迎えることになります。

今年も新しい絵が描かれているはず。

 ブラジル人たちはワールドカップが来るたびに、絵を描きます。つまりベンジャミン・コンスタントの角には、今年も住民たちの肖像が描かれているはず。あれから4年、亡くなったり引っ越したりしていなくなった人もいれば、新しい仲間が加わってもいるでしょう。

 こうやってブラジル人たちは、ワールドカップとともに人生を歩んでいるのです。ブラジル人は国中でワールドカップを味わい尽くし、国中でワールドカップを戦っています。これほどワールドカップに情熱を傾けている人はいません。

 ネイマールと仲間たちは、この途方もない期待に応えることができるでしょうか。

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